
京都、奈良、大阪ときて、今度は滋賀が舞台なのである。万城目作品はけっこう続けて読んでいて、二作
目の「鹿男あをによし」以外はすべて読んできたわけなのだが、本書はその中でも一、二を争う読後感の
良さとおもしろさを兼ねそなえた本だった。しかし、断っておくと本書を読みはじめた当初は、あまりノ
レなかったのである。正直折り返し地点までは、さほど惹かれるものはなかった。これはここで告白して
おく。それだけ吸引力のなかった本書なのだが、これが後半見事に盛りかえしてくるのだ。勝手な推測を
すれば本書は連載だったので、最初の頃は手探り状態だったのかと思うのである。でも、どこかで万城目
氏はストーリーをすべて組み立てた上で小説を書きはじめるなんてことを読んだような気もするから、こ
れは本当に勝手な想像だ。しかし、そう思ってしまいたくなるほどに本書の前半と後半の違いは明らかな
のだ。では、本書のさわりの部分だけ紹介してみようか。舞台は先に書いたように滋賀県東部の琵琶湖畔
に位置する石走(いわばしり)という長閑な町。でも、これは実在しない架空の町なんだけどね。そこに
は絶大なる権力を保持する日出家があり、驚いたことにこの一族は石走城という堀に囲まれたれっきとし
た城に住んでいる。そしてこの日出家と反目しているもう一つの一族が棗(なつめ)家なのだが、この両
家には代々受け継がれる不思議で特別な『力』があったのだ。そして、物語はその日出家に湖西から奨学
生として同族の日出涼介が越してくるところからはじまる。本家日出にも同い年の淡十郎という生粋の殿
様気質の息子がいて、涼介と淡十郎は同じ高校に通いはじめる。しかし、彼らと同じクラスに宿敵ともい
える棗家の長男、広海がいたことから不穏な空気が流れることになる。
だが、それはほんの序章にすぎない。本書のおもしろさが発揮されるのは、それからの展開なのである。
やはり心底震え上がるような敵があらわれると、盛り上がるでしょ?「ワンピース」でもそうでしょ?
そういう敵があらわれて両家に暗雲が立ち込めるあたりから、本書は俄然おもしろくなってくるのだ。
と、ここらあたりでストーリー紹介はやめておこう。あとは興味をもった方のみ自分の目で確かめていた
だきたい。タイトルにもなっている『しゅららぼん』とは何なのか?両家に伝わる『力』とは?
今回もまた万城目氏は途方もない法螺を堂々と披露してくれている。大法螺をまことしやかに、興醒めさ
せることなく、適度なユーモアをまじえ、そこに確固たる地盤と強固な説得力をもたせる。まったく、パ
ーフェクトだ。ぼく個人の見解で述べれば、本書は万城目作品の中でも一、二を争う出来栄えだと思う。
なにをおいても、とにかくラスト一行の気をもたせた終わり方が素晴らしい余韻を与えてくれる。
どうか未読の方もこの余韻を気持ちよく味わっていただきたい。
あと、最後に本書は京都のジュンク堂でサイン本として購入した。記念として万城目氏の少々生真面目な
サインをここに紹介しておこうと思う。
