5月13日に新宿のClub EXIT(非常口)という店で、『スティーブン・キング酒場』という催しが開かれた。「アンダー・ザ・ドーム」の刊行記念ということで、訳者の白石朗氏、表紙絵の藤田新策氏、そして文藝春秋の担当編集者である永嶋俊一郎氏の三方にくわえ、司会進行役で杉江松恋氏という生粋のキングマニアたちのディープなキング話で盛り上がったわけなのだが、当然のごとくぼくは行くこと叶わなかった。しかしそのときの録画映像がインター・ネットで観れたのでそれを楽しませてもらったわけなのだが、これを観てまた一段とキング熱が上がってしまったのだ。だから、ぼくも自分なりにキング作品とのかかわりあいというものを総括しようかと思って、この記事を書くに至ったというわけ。
このブログでも何度も書いてるように、ぼくが初めて読んだキング作品は文春文庫の「シャイニング」。
読了したのが1988年2月25日だった。いまから23年前のことだ。ぼくは19歳。これを読むまでぼくはキングのことを完全に色物扱いしていて、とんでもないB級作家だと思っていた。なぜならそれまで公開されていた彼の本の映画化作品のほとんどがクソみたいな代物だったからだ。しかし、それがまったくの誤解だということがこの本で証明された。ほんとこれはカルチャー・ショックだった。巨大ハンマーで頭を殴られたようなショックを味わった。なんだキング、神じゃんと思った。そしてその年がぼくのキング元年になった。次に読んだのは「呪われた町」だ。これはその年の6月5日に読了。これはグイグイ読まされたけども「シャイニング」ほどには感心しなかった。でもキングを求める気持ちには更なる拍車がかかって続けて「骸骨乗組員」、「ゴールデンボーイ」、「キャリー」、「ファイアスターター」を同月に読了。続いて7月に「クージョ」、「クリスティーン」、「スタンド・バイ・ミー」を読了する。
まさに至福。そして、この段階で日本で翻訳されているキング作品は「デッド・ゾーン」とピーター・ストラウブとの共著である「タリスマン」、バックマン名義の「痩せゆく男」そして何冊かの「短編集を除いてすべて読んでしまうことになる。「デッド・ゾーン」はその年の暮れに読むことになるのだが、どうしてこれを読むのが遅れたのかというと、映画のほうを先に観てしまったからなのだ。この映画がなかなかいい出来だったので、ちょっと原作を読む気にならなかったのだが、いつまでたってもキングの長編が刊行されなかったので手にとったら、これも素晴らしい作品で、いまでも初期作品群の中では1、2を争う完成度だと思っている。
それからしばらくはキングの本が刊行されなかった。翌年(1989年)バックマン名義の本が何冊か刊行され、その中の一冊「ロードワーク」(現在は「最後の抵抗」に改題)を読んだが、これはイマイチだった。名義が変わると作品の質も変わるのかと首を傾げたものだった。このときの印象が強くいまだにバックマン名義の初期作品である「バトルランナー」と「死のロングウォーク」は未読である。
そしてその年の8月に「ペットセマタリー」が文春文庫から刊行される。これは『あまりの恐ろしさにキングが刊行をみあわせた作品』なんていう噂が流れたいわくつきの本で、いきなりの文庫刊行は映画公開とあわせての刊行だったので異例の処置だったのかな?そしてこれがぼくの大好きな藤田新策氏がキングの本の表紙を担当した一番目の本だったのだ。これはキング版「猿の手」といわれている作品で、ぼく的には怖さはさほどでもなかったが物語として素晴らしい作品だった。読んでいて「クージョ」や「シャイニング」や「呪われた町」なんかのキーワードがちらほら垣間見えるのがなんとも心憎い演出だった。翌年1990年にはそれまでぼくが読んだ本の中で一番痛い思いをした「ミザリー」が刊行される。これは単行本での刊行だったのだが、表紙をめくるともう一つ本自体にも絵が書かれているというお遊びに満ちた装丁がほんと魅力的だった。表の表紙はキングが描くところの狂女アニーに囚われてベッドに眠る作家ポール・シェリダンのなんとも陰鬱で幻想的な絵で、中の絵はポールの作品であるロマンス小説「ミザリーの生還」の華やかな世界が描かれているというもの。この本は中のページにも仕掛けがしてあって、ポールはアニーに強要されて「ミザリーの生還」を書かされるのだが、この時使っていたタイプライターが古いものだったので、使っているうちに文字が打てなくなってくる。だから作中作として挿入される「ミザリーの生還」の何文字かは手書き文字として印刷されているという凝ったつくりなのだ。
その年はあと早川のモダンホラーセレクションからでたアンソロジーの「スニーカー」と奥澤成樹・編著の「コンプリート スティーブン・キング」、「タリスマン」を読了。更にキング愛が深まってゆく。
そしていよいよあのキングのマグナム・オーパスといわれる「IT」が刊行されるというニュースが流れる。しかし、待てど暮らせど刊行されない。年がかわって1991年。今度は4月に刊行と告知されるがまったく出る気配がない。焦れたぼくは文藝春秋本社に問い合わせる。すると、6月か7月に延びたとのこと。だが7月になってまた10月に延びるとの告知。ぼくは再度文藝春秋に問い合わせた。担当者の返答は「申し訳ありません、なにせ分厚いものですから、一冊で600ページのが上下二冊ありますので・・・・・・いい本を皆様にお届けするために努力している次第でして。はあ、一冊三千円ほどになります。どうもすみませんです」
これを聞いて更に期待が高まり、イット、イットと寝ているときもうなされる始末(ほんとうか?)。
で、我慢できなくなって封印していたバックマン名義の「痩せゆく男」を読むことにする。これがまた箸にも棒にもかからない作品で、世間の評価は知らないが、ぼく的にはまったくのボツ作品だったわけ。
と、ここまで書いてきてあまりにも長くなったので、今回はこのへんで終わろうと思う。後半戦はまたそのうちに。