読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2011-01-01から1年間の記事一覧

金原ひとみ「マザーズ」

三人の若い母親が登場する。作家として活躍する自由奔放でドラック中毒のユカ。そのユカの高校時代の同級生で育児ノイローゼから虐待にはしってしまう涼子。モデルでありながら不倫を重ね、その相手の子を身ごもってしまう五月。三人は認可外の保育園『ドリ…

終末の光景

「醤油を一升飲んで死んだ人がいてんて」 「うそや。そんなん、飲もう思っても飲めるもんちゃうって」 「いや、ほんまほんま、いてんて。平安時代らしいけど」 「そうなん?しらんかったぁー」 子どもたちのくだらない会話を聞くともなしに聞いていると、窓…

古本購入記  2011年 8月

先日、NHKのBSプレミアムで海外ドラマ「SHERLOCK」を三夜連続でやっていたのをご存知だろうか?ぼくはまだはっきり観ていないのだが、子たちに教えてやると熱中して観ていた。このドラマは、あのシャーロック・ホームズを現代版に焼き直した「…

ドン・ウィンズロウ「フランキー・マシーンの冬(上下)」

凄腕だった殺し屋が、いまは現役を引退してサンディエゴで堅気として暮らしている。釣りの餌屋と不動産屋とリネンサービスを掛け持ちし、朝のはやい『紳士の時間』に愛するサーフィンをすることを生甲斐にしている62歳。別れた妻とも良好な関係を結び、愛…

新堂冬樹「悪虐」

新堂冬樹の本は以前に「無間地獄」と「溝鼠」の二冊を読んだ。その二冊で新堂冬樹はもういいやと思った。どちらもおもしろくなかったわけではない。過剰な暴力を売り物にしているだけあって、よくそこまで書けるなと思うほど惨たらしい場面が延々と続いたが…

「雨の日の美容室」

こんな夢をみた。 彼女と一緒に雨の中、美容室に行った。そこはめずらしくボードウォークのある店で、ぼくは彼女と並 んでボードウォークに設置してある椅子に座らされた。髪を切る前に軽く洗髪いたしますと言って椅子の 背を倒しながらクルッと向きを変える…

津原泰水「11 eleven」

以前「綺譚集」を読んだときは『インモラルで、スプラッターの凄惨を極め、時に変態的でもある究極のエロスに徹し、常に尋常でない雰囲気をまとっている』と書いた。そして残酷さと美のバランスがとれておらず、そういった意味では皆川博子の短編と比ぶべく…

沼田まほかる「彼女がその名を知らない鳥たち」

一般的な常識を持ち、道徳、倫理的に人の道を外れていない普通の人々にとって、本書の内容は非常に不愉快なものである。なんせ、本書に登場する男女の誰一人として好きになれる人物がいないのだ。 主人公は八年も前に別れた黒崎俊一という男のことが忘れられ…

ジェームズ・ボーセニュー「キリストのクローン/真実」

「本が好き!」の献本である。 前回「キリストのクローン/新生」の感想で、いったいこの先どうなってしまうんだろうと興奮気味に書いていたのだが、この作者、その期待に充分こたえてくれている。なんせ、今回の最大の見せ場はあの『ヨハネの黙示録』なのだ…

ジェイムズ・ジョイス「ユリシーズ Ⅰ」

昔からぼくはギリシャ神話なんかに特別惹きつけられるものをもっていて、だからそれをモチーフにした文学作品にもほのかな憧れを感じていた。ジョン・バースの「キマイラ」やこのジョイスの「ユリシーズ」などはその中でもとびきり魅力を感じるタイトルであ…

大樹連司「オブザデッド・マニアックス」

ゾンビマニアのオタク高校生 安東丈二は、夏期合宿として本土から数百キロ離れた紋浪(あやなみ)島に来ている。クラスの中では目立たぬ存在で、みんなからは軽く無視されているのだが、彼としては大好きなゾンビ映画が観れて、学級委員長の黒髪が素敵な城ヶ…

児玉清「寝ても覚めても本の虫」

今年の五月に亡くなられた児玉さん。紳士という言葉がこれほどぴったり当てはまる人もいなかった。ぼくは特別この人のファンでもなかった。しかし、彼がオススメする本には敏感に反応した。いまとなっては何がきっかけで児玉氏に注目するようになったのか定…

かじいたかし「僕の妹は漢字が読める」

この本が成そうとしていることは、もしかすると結構すごいことなのかもしれない。はっきりいって、まだ本書を読んだだけでは、そこのところが判断できない。なぜならこの物語はまだ閉じていないのだ。 そう、ここで語られる一見したところなんとも脱力してし…

古本購入記  2011年 7月

ここ最近、文学界に由縁のある方が続けて亡くなられた。まず一人目は翻訳家の上田公子さん。上田さんといえば、ぼくの中ではトニー・ケンリック。「リリアンと悪党ども」と「三人のイカれる男」の二冊しか読んでないが、こなれた訳はとても印象深かった。あ…

皆川博子「開かせていただき光栄です ―DILATED TO MEET YOU―」

皆川博子の新作長編ミステリが読めるとは思わなかった。本当にうれしい驚きだ。ツイッターでもかなり話題になっていたのですごく期待して読んだのだが、これが期待に違わぬ素晴らしい出来栄えのミステリだったのである。 舞台は18世紀のロンドン。外科医ダ…

ディヴィッド・ムーディ「憎鬼」

これだけゾンビ好きでゾンビ小説はかなり読んでいるのだが、他のメディアのゾンビ物にはあまり接していない。バイオハザードなどのゲームやあまたある有名無名のゾンビ映画などもほとんど観たことがない。まあ、子どもがいるからというのもあるが、どうもぼ…

墓堀

こんな夢をみた。 土の匂いのする若い男がやってきて、道路に穴を掘ってくれという。ぼくはそんな理不尽な要求を、すんなり受け入れて、一生懸命穴を掘る。知らない間に右腕がつるはし兼スコップになっていて、それが結構使い勝手がいいので、見る間に大きな…

浅井ラボ「Strange Strange」

暗黒短編撰ということで、本書には台泰市を舞台にした4編の短編が収録されている。収録作は以下のとおり。 ・「ふくろおんな」 ・「ぶひぶひ♥だらだら」 ・「人でなしと恋」 ・「Last Day Monster」 それぞれ暗黒といわれるだけあって、かなり生理的にキツ…

ヒトサライ

こんな夢をみた。 ぼくは誰かに連れられて、人っ子ひとりいない街の大通りを歩いている。手を引く人物が誰なのかは、その時点ではわからない。しかしぼくに不安はなく、気持ちはすごく満ち足りている。 叔父さん?それともお父さん?見上げるぼくの目線から…

小野不由美「ゴーストハント2 人形の檻」

今回はホラーの王道の幽霊屋敷物である。いわくありげな洋館で日夜ポルターガイスト現象に悩まされる一家を救うべくSPR(渋谷サイキックリサーチ)の一行とおなじみの準メンバー達が原因究明に乗り出す。ラップ音、動く家具、地震のような激しい振動。い…

首長男とアニマ

こんな夢をみた。 やたら首の長い男がいて、ぼくの隣りを歩いている。でも、ほんとうにその男の首は異常に長く、ぼくと並んで会話してる男の身体は二メートルほど後方にある。男の首は身体から前に突き出すような形で長く伸ばされているから、こんな変なこと…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「犯罪」

ドイツの高名な刑事事件弁護士である著者による「犯罪」を扱った短篇集である。11篇の短篇が収録されているにも関わらず、200ページ強というコンパクトな内容で、1篇がおよそ10~30ページとすこぶる読みやすい。だがその内容はいろんな意味でかな…

内澤旬子「世界屠畜紀行 THE WORLD’S SLAUGHTERHOUSE TOUR」

いつもおいしくいただいている『肉』。ぼくたちは食材としてきれいに切って並べてパックに入れられた『肉』を食べている。それは元は生きた動物だったのだ。しかし、そのことを理解していても生きて動いている動物たちが、食材としての『肉』になるまでの過…

マイケル・コックス「夜の真義を」

本書は体裁からして欺瞞に溢れている。19世紀のロンドンを舞台にした復讐譚。それが手記の形で発見され、ケンブリッジ大学の教授が一冊の本にまとめたのが本書というのである。本読みとしては、その体裁を見ただけで『ああ、これは信用できない語り手の話…

武内涼「忍びの森」

天正伊賀の乱において、織田の軍勢によって滅ぼされた伊賀者の残党が、逃げた先で立ち寄った山奥の荒れ寺は、一度その中に入ると決して出ることのかなわない魔境だった。その寺には五体の妖怪が棲みついており、彼らの策略によって寺に閉じ込められた七人の…

古本購入記  2011年 6月

古本とは関係ないのだが、感銘を受けたのでちょっと一言。つい先日、NHKのBSプレミアムで「ダークナイト」をやっていた。ぼくはこの映画観たことがなくてその時にようやく観ることができたのだがこれが噂に違わず素晴らしい作品だったのだ。この映画は…

『聖なる血と希望の丘ニコラ教団』と夢の図書館

クァンメルクから北に数マイルいったところに、『聖なる血と希望の丘ニコラ教団』といういかにもいかがわしい名の宗教団体の本部がある。何もない砂漠の町で、道を通り過ぎるものといえば回転草くらいしかない辺鄙なところだ。教団の建物はガラクタの寄せ集…

北村薫・宮部みゆき編「とっておき名短篇」

「名短篇、ここにあり」「名短篇、さらにあり」に続く、北村薫と宮部みゆき選のアンソロジー第三弾なのである。次に「名短篇ほりだしもの」がきて合計四冊のアンソロジーが刊行されたことになる。アンソロジー好きには、なんとも堪えられない名作揃いのアン…

「寛永忍法帖」

刺髪天膳(さしがみ てんぜん)という最強であり最凶の刺客が来るという情報を得た公儀隠密伊賀組の服部億蔵たち一行は深夜、三舘ヶ原の廃寺に集い対応策を評議した。神楽千二郎(かぐら せんじろう)、濁酒十兵衛(どぶろく じゅうべえ)、蝦夷梵六(えみし…

セス・グレアム=スミス「ヴァンパイアハンター・リンカーン」

前作「高慢と偏見とゾンビ」で、驚きのマッシュアップ小説という盲点をついたような作品で話題をさらった著者の完全オリジナル作品である。でも、完全オリジナルといってもタイトルからもわかるとおり本書で描かれているのは、あの十六代アメリカ大統領のリ…