読書の愉楽

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窪美澄「ふがいない僕は空を見た」

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 日向蓬、豊島ミホ宮木あや子と同じく本書の作者 窪美澄も「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞している。この「女による女のためのR-18文学賞」ってのは、最初、官能小説を女性が書くための賞なのかと軽く見ていたのだが、どうしてどうしてフタをあけてみれば今後の日本文学を牽引していく勢いの素晴らしい才能が軒並み発掘されているから驚いてしまう。

 

 本書は、その受賞作「ミクマリ」をふくむ五編で構成されている連作短編集。収録作は以下のとおり。

 

■「ミクマリ」

 

□「世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸」

 

■「2030年のオーガズム」

 

 

■「花粉・受粉」

 

 それぞれ語り手が変化する。みなそれぞれつながりのある人々だ。「ミクマリ」は強引に友達に連れていかれたコミケで出会ったコスプレ好きのアニメおたくの主婦と不倫している高校生 斉藤卓巳の話。「世界ヲ~」はその主婦が主人公で、不妊を軸に空虚な日常が活写される。「2030年~」は卓巳に思いをよせる同級生 松永七菜のひと夏の出来事が描かれ、「セイタカ~」は卓巳の友達である福田良太の不安に引き寄せられる綱渡りの日々が描かれる。そしてラスト「花粉・受粉」では助産師である卓巳の母の視点で一連の物語の幕が閉じられる。

 

 一連の物語はそれぞれリンクしながら、なんらかのキーワードを軸に展開してゆくのだが、当初、セックス絡みの話で淫靡に始まった物語は、いじめや不妊や引きこもりや青春の焦燥や認知症育児放棄や出産などの問題を孕んで虐げられる者の再起の物語を構築してゆく。それぞれ本当に金八先生のドラマの最悪パターンの回をみているような気分になる話ばかりで、そういった意味では心の底から奮起の気持ちが揺さぶられて逆に勇気づけられる。最低で最悪な事があったとしても、人はまたやり直して生きてゆくことができるのだ。

 

 否定を描いて肯定を信じる。逆説的でもあるが、それがなんともストレートに心に響いてくる連作短編集だった。