読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

パスカル・ラバテ「イビクス」

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 BDコレクションの一冊。主人公であるネヴローゾフは、ジプシーの集落を通りかかったときに、一人の女に呼び止められ『世界が流血と大火で崩壊するとき、戦火が街を焼き尽くすとき、兄弟同士で殺し合うとき、あんたは金持ちになる。数奇な運命に導かれたあとには豊かな暮らしがまっている!』と告げられる。時は第一次世界大戦真っ只中、ロシア国内ではレーニンの台頭によりボリシェビキによる十月革命が起こる。彼は橋の上で物売りの少年から『ルノルマン夫人の占いカード』というものを買い求める。だがそれが導き出したカードはイビクスという不吉な骸骨のカードだった。彼は本当にジプシーの予言通りに金持ちになるのか?それともカードが示すとおり不吉な運命に翻弄されるのか?

 

 本書はトルストイの書いた「イビクス」という小説をパスカル・ラバテが漫画化したものである。トルストイというと我が国ですぐに思いつくのは「戦争と平和」や「アンナ・カレーニナ」を書いたあのトルストイなのだが、本書「イビクス」の原作者は、なんともややこしいことに、また別のトルストイらしい。

 

 で、肝心の漫画についてなのだが、これもまたすごくクセのある絵で、一見したところ 少し取っ付きにくく思うのだが、これが読んでいるうちにすごく味のある絵に思えてくるから不思議だ。この人の描く絵には輪郭線というものがない。白と黒の色の明暗のみですべてを表現するのである。これって、すごい技術じゃないかな?そうなってくると適度にデフォルメされているタッチも、自由気ままな感じの構図も、おそろしく計算深く配置されているように感じてくるのである。いやいや、それが真実だ。それをストレートに感じさせないところにこの人の描く絵の凄さがあるのだ。

 

 物語も物語も波乱万丈という言葉がぴったりのおもしろさで、合わせて描かれるロシアの内戦の悲惨さと主人公ネブローゾフが転げ落ちるように変転していくさまは、まるでヒッチコックの最良のサスペンス映画を観ているようだった。

 

読み応え充分。みなさん、このBDコレクションシリーズは傑作揃いでございます。

 

ぜひ、ご一読のほどを。