むかし、むかし高千穂遥氏の「ダーティペアの大冒険」を読んでノックアウトされて自分でもその設定だけを借りて少し創作してみたことがあった。もう二十年以上前のことである。みなさん、あのユリとケイのはちゃめちゃなスペースオペラご存知?読まれたことありますか?ぼくが思うに、平井和正の諸作と並んで、いまのライトノベルの先駆けになったシリーズだと思うのだが、どうだろうか?
で、今回その時に書いたベック版「ダーティペア」のお話のプロローグのみを紹介しようと思う。なんてエラそうなこと書いてるが、要するにプロローグしか書いてないのだ。ところで、これって、著作権の侵害になるのかな?もしそうなら誰でもいいですからご指摘ください。すぐに削除いたします。
「ダーティペアの新冒険」
その日、あたしとユリは銀河系第一級のリゾート地、惑星ナンシールで二ヶ月のバカンスの最後の一週間を楽しんでいた。バカンスの相手がユリとムギなんてのは、まったく色気のない話だけど、クサレ縁だからしかたがない。いつ呼びだされてもいいように、何をするにも一緒に行動しなければならないのだ。
といって、クサッているわけではない。けっこう楽しんでいる。なんてったって、一年ぶりの休暇なもんだから、うれしくて堪らない。それに、二ヶ月の休暇がいままでなんの呼び出しもなく平穏に過ごせてきたのは、奇跡といってもよかった。
なんてたってリゾート地、一年中常夏の惑星ナンシールなのだ。
照りつける太陽(二つもあるから、赤道直下よ)
ひかり輝く海(もうほとんど透明)
雲ひとつない真っ青な空(すいこまれてしまいそう)
浜辺に散らばる色とりどりの水着(あたしだって、負けてないわよ)
そして褐色の肌のハンサムボーイ達(ヨダレふかなきゃ)
これを天国と呼ばなくてなんと呼ぶのか。あたしは、思わず満足の笑みを浮かべてしまった。
サングラスをはずしてユリ達のほうを見る。パラソルの下で寝そべっているのに飽きたのか、ユリはさっきからムギと一緒に特別製のビーチボールで遊んでいた。あたしが見ているのに気づいて、ユリが手を振る。パワーグローブをはめた手が、この場にそぐわない。あたしはなるべく同類と見られないように、目を逸らした。ユリはあたしの素振りを敏感に悟ったらしい。こいつは、こういう時だけ反応がはやい。
「○☆△×□!」
何か言ったが、遠くて聞こえない。ここは狸寝入りにかぎる。―――――と思って目をふせた途端、鋭く風を切る音が響いてきた。
あたしは顔を上げた。
凄まじい衝撃。フェザー級のアッパーカットをくらったようだ。気を失いかけた。頭をかかえる。
すんでのところで意識を保った。くぉのやろうと顔を上げると、ユリが目の前にいた。
「だいじょうぶぅ?」
口元に両手をそろえて、お得意のぶりっ子スタイルだ。ええ根性しとるやないけ。あくまでも、シラを切るつもりか。
「ねえ、ケイ、だいじょうぶぅ?」
いい加減におしっ!そんな見えすいた手で、いつもいつもごまかせると思うてか!
「ユリ・・・・・・」あたしは、なるべく声を低くして言った。ユリがビクっと身体をすくめる。
「ユリ―――あんたねぇ、どういうつもりなのよ!さぞかし、納得のいく説明があるんでしょうね!」
最後のほうは、思わず怒鳴ってしまった。ユリはといえば、まだあのポーズをくずさすに言った。
「だってぇ、ケイに手を振ってる間に、ムギがボール打ちかえしちゃって、それを返しきれなくて思わず避けたら、パワーグローブにあたっちゃって、それでケイのほうに飛んでいったから、『あぶない!』って叫んだのに、ケイは知らん顔で目を伏せたのよぉ」
なにィ『あぶない』って叫んだぁ?ウソこけお前がなんか言ってからボールが飛んできたんだろうが!
もう我慢ならん。あたしは立ち上がって、怒鳴ってやった。
「よくもよくも、そんな見え見えのウソがつけるね!あんた、あたしが目を逸らしたのが気に食わないから、ボール投げつけたんだろ!はっきり言え、はっきり」
ユリはしばらくあたしを見つめていたが、やがて身体をくねらせて言った。
「そんな、そんなぁ。あたし、決してそんなことしないわよ。なんで、そんなことするの。ムギよ、ムギが悪いのよ。―――――さ、ムギ、ケイにあやまりなさい」
二人のケンカなどは、いつものこととガリガリと耳(ほんとは耳じゃないんだけど)の裏を掻いていたムギは、いきなり自分に矛先をむけられて、一瞬ギクッとしたみたいだが、あたしの顔を見るとシュンとうなだれた。
「ぶきゅ」
うるうるうるうる。ムギ、お前は悪くないのよ。みんな、このブルブルブリッ子のユリが悪いのよ!
「ユリっ!もう、がまんなんないわよ!あんたねぇ、ムギに責任転嫁して逃げようたって、そうは問屋がおろさないわよ。こういうことになったのも、もともとあんたのワガママが原因なんじゃない!普通のビーチボールで遊んでりゃいいものを、ムギ相手だと触手で歯がたたないって2kgもある特性ボールなんかひっぱりだしてきて、わざわざパワーグローブなんかはめて。だいたいね、ビーチボールで遊ぶのに勝ち負けなんてないだろが!このドアホ!」
最後の一言が効いたらしい。いままでのブリッ子ポーズをやめて、キッとあたしを睨んだ。
お、やるか。
「ドアホ?誰がドアホなのよ。あたしがムギを相手にしたのも、ケイがつきあってくれなかったからじゃない。もともとの原因はケイが悪いのよ。『あたしは、そんな子供のお遊びは卒業したの。ここでのんびりとアペリティブでも飲んでるわ』なんて言って、ほんとは浜辺の男の子たち見てヨダレ垂らしてたんじゃない!そのヨダレふきなさいよ!」
反射的にあたしは口元に手をやった。
しまった。一本とられた。
ユリを見ると、胸元で腕を組んで、どうだとでも言わんばかりの眼で、あたしを見かえしている。
くっそぉ、もうガマンならん。いてこましたる!
「ごたごたぬかしてんじゃないわよ!何がなんでも、あんたが悪いのよ!」そう言って一歩引いた。
「やろうってのぉ。やってやろうじゃない!」ユリも一歩引いてかまえる。
と、ムギがあたしたちの間に割り込んできて
「みぎゃあ」
一言鳴いて、あたしたちの顔を見た。
一瞬、虚をつかれたが、それで少し頭が冷めた。いままでユリしか眼に入ってなかったが、周りの状況が見渡せるようになった。
人、人、人。
あたしたちの周りは黒山の人だかり。ケンカに気をとられていたあたしたちは全然気がつかなかった。
ユリも周りを見回してポカンとしていたが、やがて―――
「なによ、なによ、なによ。見世物じゃないのよ。何ジロジロ見てんのよ。さっさと向こうへ行きな!あたしたちを誰だと思ってんのよ――――」
あわわ。言うな。言っちゃダメ。言うとパニックになる。男が、男がいなくなる。
「――――あたしたちはね、WWWA(スリーダブルエー)のラブリー・エンゼルよ!」
ユリのヤー公ばりの啖呵のあと、静寂が辺りを包んだ。聞こえるのは、波の音と海鳥の鳴き声と、どこかから聴こえてくる陽気な音楽だけ。
やがて。
どこからともなく、つぶやきが起こった。
「・・・・ダーティペア」
「・・・ダーティペアですって」
「・・・・ダーティペアだってよ」
「ダーティペア!」
「ひっ!!!」
つぶやきは段々おおきくなり、やがて喧騒にかわった。もう、何を言ってるのかわからない。声と声がぶつかりあって、響きあって、ゴォーッという音ばかり。
そして誰もいなくなった。
一瞬のできごとである。この広いビーチにいた全部の人たちがあたしたちの口論を見ていたわけではないだろうが、遠くにいた人たちも、逃げる人たちに巻き込まれてわけもわからず逃げだしたのだろう。
このビーチにいるのは、あたしたちだけになってしまった。
つまり、あたしとユリとムギ――――――あら?
あたしの見間違えじゃなかったら、あそこにいるのは男じゃないか?
まだ呆然としているユリの肩をちょんちょんと突いて、促してみる。
“あれ見える?”
ユリはコクッと頷いた。―――ということは、幻覚じゃないってわけだ。
さっきまで高ぶっていた熱が、いまの一大総非難で、すっかり冷めてしまったあたしは、冷静な頭で考えてみた。
あそこにいるのは男である。それも、わりとハンサムな。で、この状況でまだあそこにとどまっているということは、あたしたちがラブリーエンゼル(決して、ダーティペアではない)と知っていてのことだろうし、ラブリーエンゼル(くどいようだが、ダーティペアではない)と知っていてまだそこにいるということは、あたしたちに気がある証拠ではないか。
いける。
あたしは、思わず垂れかかるヨダレを急いでふいた。
男は、ジッとこちらを見ている。――――なんだか、様子が変だ。
「うぐるるるるるぅ」
ムギが唸りだした。
どういうことよ。あんたが怒っているってことは、あのハンサムちゃんはヤバイっての?
ムギの唸り声が聞こえているはずなのに、男はまだこちらを見つめたままジッと立っている。
いよいよもって不可解な。ユリもやっと正気にかえったらしく、男に注意を向けだした。
と、ここらへんで、今回は終わりにしよう。あと、もう少しだけ書いてあるのだが、あまりにも長くなってしまうからね。
どうですか、ユリとケイ、そしてムギの宇宙一剣呑なトリオは、この後いったいどんな出来事に遭遇するのでしょうか?←なんて言って、書かれてあるのは、あともう少しだけでその先は白紙なんだけどね^^。