読書の愉楽

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スティーヴン・キング「アンダー・ザ・ドーム(上下)」

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 まず、本書の分量をここで再確認しておこう。上下二段組で上下巻合わせて1400ページ。長さ的には「ザ・スタンド」、「IT」に次いで三番目に長い長編なのだそうだ。

 

 ぼくがこれを読み始めたのがゲラの届いた4月5日。そして読了が発売日である4月27日。毎日時間を見つけて読み続けて22日で完読したわけなのだが、これは今のぼくにすれば驚異的なスピード読了なのである。このブログでも何度も言及してきたが、とにかく本書のリーダビリティは並居るキングの諸作品の中でも一、二を争うものであり、まさに吸い込まれるように物語の中に入ってゆく毎日だった。

 

 正直、最初にこの話のシノプシスを知った時、さほど惹かれるものは感じなかったのである。だって、ドーム状の破壊不能の透明な壁の中に一つの町が閉じ込められるなんて、そんなに動きがあるようには思われないし、第一かなり手垢のついた題材にも思われるし、なにより恐怖やサスペンス的なおもしろさがあるようには思われなかったのだ。

 

 だがさすがキング、そんな不埒な思いを吹っ飛ばす濃密で躍動感あふれる人間のドラマが圧倒的なおもしろさで展開されていたのだ。キングの「アクセルをフロアまで踏みっぱなしにする長編」の言葉通り、開巻早々チェスターズミルの町が正体不明の〈ドーム〉によって外界から完全に封鎖され、それによって様々な事象が引き起こされる様子を同時多発的にとらえて描き出し一気に読者を物語に引き込んでゆくプロローグ、そしてそれに続くこの町に囚われた人々が織りなす混乱と恐怖の日々が描かれる。

 

 本書の目玉である正体不明のドームは、いってみれば舞台装置。ありえない状況でもあり、いったいどうしてこんな事が起こってしまったのかという不思議を追求していくのが本来の物語の進行方向なのだろうが、キングはそこに焦点をあわせず、ひたすら閉鎖状況に陥った人々の様子を描写していく。あちらこちらでいろんな事件が起こり、それらが並行して描かれ群像劇として抜群のドラマが展開する。

 

 ここで一言断っておきたいのが本書の目次の次に配されている【主な登場人物】のページだ。4ページに渡って紹介される人物は50名以上。普通こんなの見ちゃうと、ちょっと怯んでしまうでしょ?でも、ご安心あれ。そこはキング、これだけの登場人物をなんの混乱もなく、またストレスも感じさせず自然に物語の中に溶け込ませ、尚且つ印象深く描き分けてゆくので、まるで実際に会っているかのごとく頭の中に定着してゆくのである。

 

 さて、長々と書いてきたが詳細は敢えて語らずにおこうと思う。何がどうなって、どんな事が起こってなんてことここで語ってしまっては興醒めもいいところだ。それはどうか実際に読んで確かめていただきたい。最後にもう一度言いましょう。本書は数あるキングの作品の中でも一、二を争うリーダビリティであり、一旦読み出すと夢中になること請け合いです。オビの文句は嘘ではありません。どうか、みなさん読書の愉楽をご自身で味わってください。