読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2010-01-01から1年間の記事一覧

ジョー・ウォルトン「英雄たちの朝  ファージングⅠ」

本書で描かれる世界は、IFの世界である。専門用語でいうところの歴史改変物というわけだ。では、どういう世界になっているのかというと、英国とあのナチスが講和条約を結び戦争が終結した世界になっているのである。ふーん、なるほど、で?それがどうした…

聖ベアトリーチェの黒棺

今度逢うときは前世でね、と変な挨拶をして彼女は去っていった。西日に向って目をすがめながら手をふっているその姿に違和感をもったが、その時は何がおかしいのかわからなかった。 でも、よくよく考えてみると今日の彼女は確かにおかしかった。食事の最中に…

チャイナ・ミエヴィル「ジェイクをさがして」

十三の中・短編と漫画が一編収録されている。SF文庫で刊行されているが、ぼくが読んだかぎり本書の作品群はどちらかというとSFというよりホラーに近いものだった。 すべての作品に共通するのはいいしれない不安である。ミエヴィルはほとんどの作品におい…

本谷有希子「乱暴と待機」

この人やっぱりおもろいわ。いまだかつてこんな変な話読んだことなかったもの。 本書のストーリーをかいつまんで紹介すれば、なんて変態ちっくな話なんだと思われてしまうだろうが、敢えて紹介してみよう。 まず、一組の兄妹が出てくる。この二人は一緒に長…

スペンサー・クイン「ぼくの名はチェット」

本書は一応ハードボイルドミステリーの体裁になるのかな?私立探偵と失踪人探しとくれば、やっぱり王道でしょ?しかし、語り手は犬なのだ。だから決してハードボイルドにはならないのである。 タイトルにもなっているチェットが本書の主人公なのだが、これが…

古本購入記  2010年8月

猛暑が続いております。ぼくの仕事は外での作業が多いので毎日ほんと汗だくになっております。でも ね、負け惜しみじゃないけどこれだけ毎日汗をかいてると自然と共に循環してるような気がしてくるので すよ。確かに熱射病の恐怖も表裏一体なんだけど、それ…

混乱と正義

楽しい時間は息つく間もなくすぎさり、あとには荒涼たるモノクロの世界が広がった。首のとれかけた人形を引きずったお姉さん。ずっと口が開いたままの男の子。どこを見ているのかわからないおじいさん。両手の人差し指をくっつけて、そこを食い入るように見…

有川浩「フリーター、家を買う。」

はじめて読む有川浩の長編だ。今度ドラマ化されるということで早速読んでみたのだが、これがなかなかおもしろかった。このタイトルを見れば、ある程度話の内容が察せられる。フリーターという半分自由人のような生活を送ってる男が一念発起して家を買うまで…

舞城王太郎「イキルキス」

「真夏のMAIJO祭!!」第二弾は本書なのである。本書には短編が三編収録されている。タイトルは以下のとおり。「イキルキス」「鼻クソご飯」「パッキャラ魔道」 この三作を読んで、ちょっと前の舞城節みたいなものを満喫した。舞城くんはこうでなくっち…

貴志祐介「悪の教典(上下)」

どこまで話してもいいのかな?とりあえず、本書には稀代の殺人鬼が登場する。その名は蓮実聖司、高校の英語教師であり、その甘いルックスと高い知性でもって学校でも人気の先生なのだが、彼は生まれつき人間としての感情が欠如しているという重大な欠陥をも…

椎名誠「全日本食えば食える図鑑」

これは、あの椎名誠が日本全国を旅して、普通は食べることのない珍食奇食を食べつくすというゲテ物食べ歩きエッセイなのである。だからといって、見るもオゾマシイこんなの食えるか!というものばかりが登場するわけではない。いたってノーマルな『ハチの子…

舞城王太郎「獣の樹」

またまた獅見朋成雄の世界なのである。だが、いつものごとくいままでの獅見朋成雄世界とのストーリー 的なリンクはない。いくつかのキーワードが合致するのみなのである。「SPEEDBOY!」 で描か れた音速を超える俊足が本書でも縦横無尽に駆けめぐり…

ジョージ・R・R・マーティン、ガードナー・ドゾワ&ダニエル・エイブラハム「ハンターズ・ラン」

あのマーティンの名が大きく書かれているので誤解を招いてしまうが、本書のアイディアを思いつき原型を書いたのはガードナー・ドゾワだ。それをマーティンが書き足し、最終的に補足し全体をまとめたのが新人のダニエル・エイブラハムだとのこと。驚くなかれ…

ウッブ・ステーションの連接モグ

ウッブ・ステーションをとりまく連接モグは、人間の創造値を超えた建造物であり、それは見る者に脅威と畏怖をあたえるに充分な神の手になる光の神殿だった。舟に乗った者しか見ることのできないこの宇宙の蜘蛛の巣は総面積約4000万Km2、オールド・アー…

ひっそりと教えて……みんなの「怪談」

以前に投稿した記事ですが、またあらためて投稿いたします。 ぼくが聞いたことのある怖い話を、ここで紹介したいと思います。怪談といえばよくタクシーの運ちゃんが、幽霊と遭遇された話を聞きますが、以下の話は実際にぼくがタクシーの運ちゃんから聞いた話…

高橋源一郎「「悪」と戦う」

平易な語り口で紡ぎ出される物語は、その取っ付きの良さからは想像もできない大きな何かをぼくの中に残していった。 本書に登場する三歳のランちゃんと一歳半のキイちゃんは高橋家の大事な子どもたちである。だが、キイちゃんはどうも言葉の発達が遅れている…

島田雅彦「悪貨」

島田雅彦の本を読むのは初めてである。「彼岸先生」とか「退廃姉妹」などは少し興味を惹かれもしたが なんとなく読まずにきた。本書はそんな彼が書いたクライム・ノヴェル。通貨偽造事件を扱っているのだ が、これがなんともお粗末な出来だった。 この人って…

古本購入記  2010年7月

みなさん、夜はエアコンつけて寝てますか?ぼくは、エアコンはつけずに寝ております。窓は全開だけど ね^^。さて、最近はAKB48にハマってたりするのである。遅かりしですな。You Tubeで、 『ネ申す』テレビなんかを観て楽しんでおります。あと…

梓崎優「叫びと祈り」

新人さんの連作ミステリということで、五編収録されているのだが最後の一編を除いて、すべて海外が舞台になっているというなかなかの意欲作だ。描かれる国のほとんどが、いってみれば一般の旅行者からみればマイノリティに属する辺境の地で、サハラ砂漠であ…

ジョージ・R・R・マーティン「タフの方舟 2 天の果実」

『タフの方舟』第二弾なのである。今回も短編が四話収録されているのだが、それぞれすこぶるおもしろかった。もうこのシリーズは間違いないのである。 というわけで、方舟なのだ。まあ、このアイディアはほんと素晴らしいね。この方舟と環境エンジニアリング…

『湖の幽霊』

最近話題になっているアバダムの東にある『湖の幽霊』を見に行こうと友人たちと出かけることになった。コンウェイの安宿で腹ごしらえをした我々は、一路湖を目指して馬を駆けた。時刻はとうに夜半を過ぎたと思われる頃ダッツが首を傾げながら大きな声でおか…

マルコス・アギニス「天啓を受けた者ども」

前回の「マラーノの武勲」は歴史小説だったのだが、今回は現代が舞台の大きな括りでいえば犯罪小説である。 南米と北米を股にかけた麻薬がらみのクライム・ノベルといえば、まだ記憶に新しいウィンズロウの「犬の力」が思い浮かぶが、本書はそれと同じ題材を…

若竹七海「バベル島」

素敵で怖い短編が11編。この人の本格的なホラー作品を読むのは初めてなのだが、なかなか楽しめた。収録作は以下のとおり。「のぞき梅」「影」「樹の海」「白い顔」「人柱」「上下する地獄」「ステイ」「回来」「追いかけっこ」「招き猫対密室」「バベル島…

真梨幸子「孤虫症」

まあ、なんとも変わった話だった。これほど展開が読めない本もめずらしい。しかし本書はちょっとでも筋を話してしまったらおもしろさが半減すると思われるので、未読の方がおられた場合を想定してあえてストーリーの紹介はせずに本書の感想のみで書いてみた…

川端裕人「The S.O.U.P.」

ぼくは本書を読むまで『ハッカー』と『クラッカー』の違いを知らなかった。この物語に出てくる大方の人と同じくして、ハッカーはインターネット上で悪意をもって攻撃をしかけてくる不正利用者のことだと思っていたのだ。しかし、それは間違った見識だった。…

戦争とトカゲ

タミヤのタイガー戦車のプラモが欲しくて、いつまでも眺めていたら店のおばちゃんが声を掛けてきた。 「ぼく、そのプラモデルがそんなに欲しいのかい?」 ぼくは驚いて振り返り、おばちゃんの顔をじっと見つめた。短く切った髪の毛をくるくるとパンチ・パー…

飴村行「粘膜蜥蜴」

これね、残念なことに話半ばで、まるっとするっとお見通しになってしまったのである。おそらくこういうオチになるんじゃないかなと予想してたらその通りになったので、逆に驚いてしまった。だから、ミステリ的興趣はあまり感じなかったのである。話的には前…

古本購入記  2010年6月

というわけで、また一ヶ月の成果を発表する機会が巡ってまいりました。あまり古本屋には行ってないと 一言メッセージでも書いていたのだが、それでも本は買っていて、数えてみると23冊22作品も買って いた。タイトルは以下のとおり。 「少女外道」皆川博…

藤沢周平「隠し剣孤影抄」

藤沢周平の市井物には慣れ親しんでいるのだが、正直剣客物はあまり読んだことがなかったのである。ついこの間読んだ「人生を変えた時代小説傑作選」に収録されていたあの有名な「麦屋町昼下がり」のみが唯一読んだことのある藤沢剣客小説だったのだ。(そう…

コーマック・マッカーシー「ザ・ロード」

終末を迎えた世界。空は灰色に染まり、世界はひっそりと死に絶えている。そこを旅する父と子の物語。 彼らは南を目指す。そこに何があるのかわからないが、とにかく彼らは日々をぎりぎりの緊張感でやり過ごしながら南へ向って旅をしているのだ。 彼ら以外の…