追いつめられていく人間たちの群像劇。「最悪」、「邪魔」が大好きなぼくとしては、このなんとも救い
のない物語を大いに楽しんだ。
本書には五人の残念な人たちが登場する。簡単に紹介すると
・東京の大学を夢見て勉学に励んでいるにも関わらずとんでもない事件に巻き込まれてしまう女子高生。
・詐欺同然の押し売りで荒稼ぎし、別れた妻に小さい息子を押し付けられてしまう暴走族上がりの青年。
・野望だけは一人前だが、立ちはだかる様々な弊害にどんどん窮地に追い込まれてしまう市会議員。
ゆめの市という東北の地方合併都市が舞台。描かれている時期も冬ということで、はじめから終わりまで
ずっと曇天模様。それが本書の疲弊した地方都市のやりきれない無力感を象徴している。最後のほうでは
雪が降って、またそれがラストの着地への伏線ともなっている。それはバラせないが、本書を読み終わる
と表紙の写真の意味がわかって、ああそういうことかと納得することは請け合いだ。
相変わらずこの人の描く人々はあまりにも現実的で、おもしろい。それぞれの描き分けがしっかりされて
るからなんの違和感もなく物語に没入することができる。重ねられていくエピソードも枝分かれしていた
ものが太い幹に集約されるようにどんどん絡み合ってくる感じが興趣を深める。
これだけ広げた話をいったいどういう風にまとめるのだろうかと心配していたが、なるほどね、こりゃエ
ライことになってしまうのね。いってみれば投げ出されたような感じで、みんなのその後はどうなった?
と思わなくもないが、ぼくはこのラストでよかったと思う。曇天模様の本書のトーンに非常にマッチした
終わり方だといえるだろう。
やはり、ぼくはこの路線が大好きだ。なんともやりきれない人々のあがき苦しむ群像劇。ほんと、このシ
リーズ、ページを繰る手がとまらないおもしろさなんだよね。