当たり障りのない会話をしていたら、彼女が怒って部屋を出ていってしまった。
そしてそのまま戻ってこなかった。
ぼくが好きな彼女は、いつもいい匂いがしたし、笑顔がとても素敵だった。でも、それが普通に存在する
日々に埋没していたぼくは、それがどれだけ希少で素晴らしいものなのかを忘れてしまっていたのだ。
彼女を失ったぼくは三日間意識を失ったあと、なんとか正気に戻って、すぐさま探偵を雇った。
探偵の名はMJ。といってもマイケル・ジャクソンではない。ミカサ住建の頭文字をとったものだ。どう
して探偵の名がミカサ住建なのかはわからない。夢ってそんなものでしょ?
MJに前金で百二十万渡したぼくは、足元にひざまずいた彼のアゴを爪先でクイッとあげて、睨みつけな
がら「一日で探しだしてこい!一日ということは二十四時間だ。それを一秒でも越えたら、ナイフを差し
込んで、お前の鼻の穴を一つにしてやる」と怒鳴った。
なんとも残酷な脅しを言うもんだとあきれてしまうが、これはおそらく映画「チャイナタウン」でジャッ
ク・ニコルソンが同じ目にあったのを憶えていたからだと思われる。ぼくって意外と映画から影響受けて
るんだよね。
だが、探偵はしくじった。彼は、ぼくの大事な彼女の居場所を突き止めながらも、それを隠そうとしたの
だ。MJは、ぼくの恫喝に怯えていたにもかかわらず、彼女の魅力にほだされて篭絡されてしまったので
ある。ぼくはMJを捕えて、知り合いの歯医者と共に彼を拷問にかけた。え?どんな拷問かって?
映画マニアの方ならもうおわかりだろうが、ぼくは彼を診察台に縛りつけ、知り合いの歯医者に彼の歯を
削らせたのだ。そう、あの「マラソンマン」でダスティン・ホフマンが受けたなんとも痛い拷問に倣った
わけなのである。だから、もちろんぼくの知り合いの歯科医はローレンス・オリビエなのだ。
そんなことはどうでもいい。ドリルとチョウジ油の交互の攻撃に身も心もボロボロになったMJは、とう
とう彼女の居場所を吐いた。
彼女がいたのはサイゴンだった。そう、ベトナムだ。ぼくはマイケルと一緒にサイゴンに飛んだ。そこに
は変わり果てたニックと一緒に彼女がいた。そしてはじまる恐怖のロシアン・ルーレット。この後が気に
なる方はマイケル・チミノ監督の名作「ディア・ハンター」をご覧ください。
エンディングテーマ曲 スタンリー・マイヤーズのカヴァティーナ