この二人の本は読んだことがなかったので本作のどのパートがどちらの受け持ちなのかなんてのはよくわからなかったが、壮大な伝奇物として最後まで飽きることなく愉しめた。
タイトルにもあるとおり本書の要は『郭公の盤』なのである。古事記の時代から存在するというこのとんでもないシロモノをめぐって物語はジワジワと不気味に進行していくのである。
伝奇物の面白さというのは、やはり大真面目な嘘にあるのであって、それが壮大であればあるほど読み手のテンションは鰻上りに高まってゆくというのが相場なのだが、本書もその例に洩れずかなり壮大な嘘を大真面目に語ってくれている。そりゃあ、かつて寝食を忘れて読みふけった半村良「石の血脈」や高橋克彦「総門谷」などとくらべると見劣りしてしまうが、どうしてどうして本書もかなり健闘しているのである。
音楽探偵などというものが登場するのは田中啓文氏お得意のネタなのだろう。その音楽探偵が『郭公の盤』の謎を解いていくというのが主軸の流れで、そこに妊婦を流産させる和歌の披講や、聴いた人の精神を歪ませるアムネジアという女性三人組のバンドの話などが盛り込まれ、どんどん『音』に関するオカルトネタが加速していきやがてこの世の終わりのようなスペクタクルなラストへと雪崩れ込んでいくのだが、前半と後半の物語密度の差が激しいのが玉に瑕。そこに少し作為が浮上したりして興を削ぐ。
まあ、これだけの話を強引に終わらせた感がありありなのだ。それは違和感としてどうしても残ってしまうが、それを除けてもこのローランド・エメリッヒもハダシで逃げ出すような奇妙でエグくてド派手なラストはいままで味わったことのない映像をみせてくれるから、これは必見だといえるだろう。
オカルトといってもあまり恐怖を感じる類の話ではないが、不気味さはかなり味わえる。ぐちゃぐちゃして臭くて得体の知れないものが苦手な人は読むべきでないかもしれない。しかし、ここで出てくるナウシカの巨神兵のような最終兵器は凄いね。これをもっと活躍させてどんどん前に出したら更にエキサイティングでおもしろい話になったんじゃないかと思うのだが、どうだろう。
やはり伝奇物はおもしろい。おもしろい上にロマンがあって新たな解釈があるところが素晴らしい。もっともっとこういうおもしろい伝奇物を読んでいきたいものである。