読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

キャロル・オコンネル「愛おしい骨」

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二十年前に失踪した弟の骨を一つづつ誰かが玄関先に置いてゆく。なんと魅力的な出だしだろうか。そ

れを調査するのはその弟の兄であり、二十年前森に弟を置き去りにした張本人。いったい、そのとき何

があったのか?いったい誰がバラバラになった弟の骨を毎晩届けてくるのか?

だがこの魅力的な出だしから想像するようなホラーじみた展開も、猟奇的な事件性もなく話は進められ

てゆく。舞台となるのはカリフォルニアの北西に位置する大きな森を抱いた小さな町コヴェントリー。

狭い町では、誰もがお互いのことを熟知しており、いってみればみんなが大きな家族のような存在だ。

だが、この町に住んでる人々は奇人変人の集まりであり、あまりにも奇矯で一筋縄ではいかない人物ば

かりだったのである。

はっきりいって、本書を読むのはなかなか困難だ。世間の評判はかなりいいようだが、ぐいぐい引っぱ

ってゆくようなリーダビリティはないといっていい。だが、これが読み続けているとクセになるおもし

ろさなのである。さっきも書いたようにまず登場人物たちがクセ者揃いであり、その言動が興趣をもり

たてる。また、その相関関係が明かされてゆく過程がオフビートながらまるで見えない攻防を描いてい

るような静かな迫力に満ちており、少しづつ解きほぐされてゆく事件の真相への到達にじりじりと近づ

いてゆく快感がある。いわば拡散していた様々な意味が次第に焦点を結んでゆき、唯一つの真実が見え

てゆくミステリとしての本道がしっかりと描かれているのである。

全体的に静かなトーンで、ゆっくりと時間が流れてゆくような錯覚を覚えるが、描かれているのはほん

の数日の出来事だ。奇矯でまるで『真夜中のサヴァナ』に出てくるような登場人物たち。そんな彼らが

右往左往する小さな町コヴェントリー。ここには数々のドラマが内包されており、エピソードには事欠

かない。読者は本道から逸れるように数々のエピソードにのせられながら、少しづつ手掛りを集めてゆ

くことになる。誰が弟を殺したのか?なぜ弟は殺されたのか?

さて、興味をもたれた方は是非読んでみていただきたい。性急に読みとばす類の小説ではないが、それゆ

えにじっくりと楽しむ滋味にあふれた小説だといえるだろう。