読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

山田風太郎「忍法落花抄」

                   

 

                    イメージ 1



 山風忍法帖の短編集である。本書は佐伯俊男画伯の表紙が素敵な角川文庫の短編集である。本書に収録されているのは以下の八編。

 

「忍者 仁木弾正」

 

「忍者 玉虫内膳」

 

「忍者 傀儡歓兵衛」

 

「忍者 枯葉塔九郎」

 

「忍者 帷子万助」

 

「忍者 野晒銀四郎」

 

「忍者 撫子甚五郎」

 

「「今昔物語集」の忍者」

 

 これらのすべては現在ちくま文庫忍法帖短編全集か講談社文庫の「野ざらし忍法帖」、「かげろう忍法帖」などで読むことができる。どの短編がどこに収録されているのかはよくわからない。ひところ山田風太郎の本は永らく絶版だったものなどが軒並み再刊されたことがあったが、それからも何度も版をあらため本が刊行されるので、もういったいどれがどうなっているのかよくわからない状態なのだ。

 

 ぼくなどは忍法帖に関しては角川文庫版でひととおり揃えてあったので混乱することもなかったが、最近になって山風フィーヴァーにやられた人などは、どれを集めればよいのか正直わからないのではないかと思ってしまうのである。

 

 とまあ、そんな余計な心配はおいといて本書なのだが、各短編のタイトルからもわかるとおり本短編集の作品はラスト一編を除いてすべて忍者自身をピックアップしたものとなっている。扱われる時代は「忍者 撫子甚五郎」のみが関が原の役前夜が舞台になっているが、その他はすべて江戸の太平の世が舞台となっている。短編ゆえの切れのよい作品が続くのだが、やはり長編と比べればストーリーの起伏を楽しむというわけにはいかない。それぞれが忍者の持つ一発勝負の忍法に集約される構成となっており、そこに少し捻りが加えられている。それぞれ長さも適度なので、軽く読めるようになっている。この中で特筆したいのはラストの「「今昔物語集」の忍者」だ。これは一種のエッセイのような感じで書かれているのだが風太郎がどうして忍法帖を書くに至ったかといった楽屋裏話から、あの今昔物語に描かれる忍術もどきの紹介までさくさく読めてまことに楽しい読み物になっている。

 

 長編はもうすべて読んでしまった。角川短編集の未読本は、あと三冊。はあ、もうすぐ忍法帖はすべて読み尽くしてしまうなぁ。なんかさびしいなぁ。