読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ジョー・ウォルトン「暗殺のハムレット ファージングⅡ」

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 ファージング第二部である。ナチスドイツと講和条約を結んだ英国の趨勢を描くこの歴史改変シリーズ、本作ではタイトルからも察せられるようにヒトラー暗殺計画の一部始終が語られる。抗えぬ運命に翻弄される人々を描いてファシズムに傾倒していく英国の姿を浮き彫りにしてゆくさまは重厚で読み応え充分。

 

 もうすっかりこの世界に魅了されてしまった。

 

 このシリーズには一つの共通点があって、どの本も二人の語り手によって話が進められてゆく。一人はそれぞれの物語でヒロインをつとめる女性。そしてもう一人が全作共通の登場人物である刑事カーマイケルである。この二つの視点によって交互に事件が語られることによって同時性がうまれ、ヒトラー暗殺という終着点に向ってすべてが集約されてゆくサスペンス構成がなかなか素晴らしい。しかし、読者は一番最初に事件の実行犯である語り手のヒロインが捕まっているという事実を知らされるのである。計画は失敗したのか?その事実が伏せられていることによって、ミステリとしての興趣もうまれてくる。

 

 う~ん、うまいなぁ。それが本書を読んで実感したことだ。この作者、話の転がし方がまことにうまい。

 

 次の「バッキンガムの光芒」でこのシリーズは幕をとじるわけなのだが、いったいどう話が転んでゆくのか気になって仕方がない。本書では、前作「英雄たちの朝」の後日譚などもそつなく描かれており、あの人がそんな目にあっていたのか!あれからそんなことが起こったのかと驚くことしばし、巧みに物語世界に入ってゆけるようになっている。

 

 さて、あまりにももったいないので、続けて第三作を読まずに少しインターバルをおこう。そうしないとこの魅惑的な世界をあまりにもはやく駆け抜けてしまうことになるではないか。それは、無謀以外の何ものでもない。そんなことはしてはいけないのである。