――― それをはやく出さないから会社が潰れてしまう。はやくしろ、お前。ほら、車に乗れ!
と社長に怒られて助手席に滑り込んだのまではよかったが、いったいぼくが何を忘れて出さなかったのか
がよくわからない。なんか非常に大事な書類をどこかに提出しなくちゃいけなかったのだろうが、それを
忘れていたということだろう。身に覚えがないのだが、社長は絶対だ。社長が言うのだから間違いはない
のだ。だからぼくは無条件に従わなくてはいけないのだ。
――― お前、自分がどれだけの事をしたのかわかってんのか?よくそんな風に平然としてられるな。
頭から湯気が出てるのが見えるようだ。こんなに怒っている社長を見るのは初めてだ。ぼくは、咄嗟に身
の危険を感じる。延髄の部分を凄い勢いでなんらかの液体が脳に流れ込んでゆく音が聞こえた。
社長の怒りが運転にも伝わって、車が暴れだす。上下に大きく跳ね上がってまるで、荒れ狂う馬に乗って
いるかのようだ。
――― 本当にお前の家にあるんだろうな?もしなかったら、どえらい事になっちまうんだぞ!
あわわわわ、どうしよう?ぼくの家にそんな大事なものあったかな?会社の書類を持って帰った記憶はな
いんだけど・・・・・。
社長の運転する車は跳ねて、飛んで、周りの車を蹴散らかしながら時速200キロでぼくの家を目指して
ゆく。当然、本来ならもう家に着いてるはずなのに、いまだに走っているのはどうしたことか?
窓から大きくはじけたザクロが飛んで入ってきて、社長の頭に当たった。普通ならさしてたいした衝撃で
もなかったろうに、時速200キロで移動していたので、ザクロの衝突は慣性と重力との総和量でもって
予想以上の衝撃をもたらし、社長の頭にメリ込んでしまった。
今度はぼくらが乗った車がザクロになった。
ぼくはなぜか地球の外に放り出されてしまい衛星の周回軌道まで打ち上げられて、そのまま落下していっ
た。落ちたところは映画館。ぼくはどこかから落ちると80パーセントの確立で映画館に着床する。
それが不思議な夢の法則。