読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-03-01から1ヶ月間の記事一覧

彼女の笑顔

彼女がぼくを怒るから 彼女が涙を流した 彼女がぼくを笑うから 彼女が涙を流した 彼女がぼくを哀しむから 彼女が涙を流した 彼女がぼくを愛したから 彼女が涙を流した 目の見えない彼女は世界一不幸なのに 世界一の笑顔で 世界一幸せそうな顔をする

山田風太郎角川忍法帖表紙コレクション第2弾

前回、大変好評だったので(笑)、また山田忍法帖コレクションを紹介したいと思います^^。 今回は後期に出版された角川文庫の中から、独断と偏見でぼくの好きな表紙をセレクトしていきたいと思います。 まずは「外道忍法帖」。 どうですか?この表紙に描か…

どこもかしこも

新月に照らされた歩道の上に 思い出深い歌のなかに 冬風の吹く公園のベンチに マザー・テレサの心のなかに 人のまばらな地下鉄のホームに 蛍が飛びかう夏の河原に 子供を産みおとした母親の胸に 遊園地の観覧車のなかに うらぶれたアパートの一部屋に 言葉な…

多岐川恭「濡れた心」

青春期のもどかしさ狂おしさつのる思いというものは誰でも通過儀礼として経験しているものである。 恋愛にしろ、人間関係にしろ、一時期のそうした暗中模索の期間を経て人は成長していく。 子供から大人へ変わるイニシエーションとしての痛みを感じて傷つき…

情景1

夜に沈む山の影を見ると不安になる。 あなたは、いつも通り夕餉の支度。 トントンとまな板を打つ包丁の音。 あなたの背中には、悲しみが見える。 ゆっくり身体を蝕む病魔のように、 ためらうぼくに不安がのしかかる。 髪を切ったのはいつなのだろう? いま、…

ジョン・ダニング「死の蔵書」、「幻の特装本」、「失われた書庫」

読んでみて、待ってましたこんなの読みたかったんだよと快哉を叫びたくなる本というものがある。 ジョン・ダニング「死の蔵書」がまさにそういう本だった。 この本のどこに狂喜乱舞したのかといえば、それは古本マニアが随喜の涙を流してしまうあまりにもマ…

岡江多紀「鑑定主文」

刑法39条について書かれた本はいまでは、掃いて捨てるほどあるのかもしれないが、本書が出版された 年(1994年)には、まだ目新しい題材だったように思う。 1.心神喪失者ノ行為ハ之ヲ罰セス、2 .心神耗弱者ノ行為ハ基刑ヲ減軽ス 精神鑑定によって責任…

期間限定ファン限定で

わが子たちの写真をアップしました。 3月末まで公開中です。

ピーター・ラヴゼイ「つなわたり」

これもいまは品切れ状態なのである。 どういうこと?ラヴゼイといえば、日本でも結構人気ある作家だしその作品のほとんどはいまでも簡単 に手に入るのに、このあいだ紹介した「煙草屋の密室」と本書だけが品切れ状態なのである。 本書は「偽のデュー警部」に…

子供の情景 1

虫をつかまえてよ 脚をもいでやるんだ 六本もあるから、一本くらいなくなっても大丈夫なんだ。 笑顔で言う子供に笑いかけていいのか、怒っていいのかわからない 日常が不安定になる瞬間 動揺 子供は残酷だ ぼくもその道を歩んできた 君は大きくなると何にな…

花村萬月「鬱」

何年も前だが、はじめて書店で本書の単行本を見たときは、その異常な分厚さと改行のない真っ黒に埋 めつくされたページ、それと『鬱』というインパクトのあるタイトルから、たいそう凄い本だなと身構 えた記憶がある。 本書は一気に読むには重すぎる。ぼくは…

気になってるんだけど一冊も読めてない作家

多いんですよね、そういう作家って。 最近の人でいえば、浅暮三文なんてとても気になる。感覚的な小説を得意とするらしいが、いったいどういうものなのか味わってみたい。それにセンスも良さそうだし^^。 だって、メフィスト賞を受賞したデビュー作なんて…

ジェフリー・フォード「白い果実」

2004年の夏本書は刊行された。 本書は、世界幻想文学大賞を受賞しているという話題性もさることながら、あの山尾悠子が翻訳に関わ っているということで一部のコアなファンに刊行を待たれた作品だった。 ぼくは、山尾悠子の本を読んだことがない。興味は…

大きくなるために

坂道をのぼる元気があれば もっと大きくなれるのに 自分が偉いなんて思ったことはない でも、人には負けたくない 大きくなるってことが試練なら 人はみな子供のままでいたいはず 音楽を聴くように 歌をうたうように 自然でいられたらどんなにいいだろう 他人…

中山可穂「深爪」

二冊目の中山可穂である。薄いからすぐ読めてしまう。 だが内容は結構ヘヴィで、でも読了してみればちょっと心が軽くなるという変わった本だった。 中山可穂の描く恋愛はレズビアンという神にも祝福されない恋愛を扱っていながら、切実さと登場人物の不器用…

スチュアート・ウッズ「警察署長」

ミステリオールタイムベストにもよく顔を出す、あまりにも有名な本である。 本書で描かれるのはアメリカ南部の小さな町の四十年にわたる歴史。上下巻まさしく一気読みのおもし ろさ。夢中になってしまう。 本書で強く印象に残るのは、大量殺人でも一つの町の…

小林信彦編「横溝正史読本」

横溝正史は、ほとんど読んだことがない。「獄門島」も「本陣殺人事件」も「八つ墓村」も、みんなテ レビドラマか映画で観てしまった^^。彼の作品は短編集を何本か読んだだけである。 なのに、この本を読んでしまった^^。 しかし、これがめっぽうおもしろ…

風邪の時にみる夢

子どもの頃、風邪を引くと必ずみる夢があった。 どこか暗い場所。建物の中にいるらしいが、暗くてよくわからない。 風がビュービュー吹いてきて、とても寒い。 暗いから、意味もなく怖い。誰か早く電気つけてくれと思うけど、誰もつけてくれない。 自分でつ…

あなたを愛する気持ちから

あなたを愛する気持ちから こんなに他人を憎みました。 あなたを愛する気持ちから 服の好みを変えました。 あなたを愛する気持ちから セザンヌという画家も知りました。 あなたを愛する気持ちから タバコもきっぱりやめました。 あなたを愛する気持ちから 荷…

ウィリアム・ゴールドマン「プリンセス・ブライド」

ウィリアム・ゴールドマンといえば、「明日に向かって撃て」、「華麗なるヒコーキ野郎」最近では、S・キングの映画化作品の脚本で有名だが、作家としても並々ならぬ力量をそなえている万能の人である。「マラソンマン」、「マジック」そして今回紹介する「…

法月綸太郎編 「法月綸太郎の本格ミステリ・アンソロジー」

こういうアンソロジーが結構好きだったりする。 いままで角川から北村薫と有栖川有栖がそれぞれ編者を務めたアンソロジーが出てるのだが、よくこんなの見つけてきたなっていうくらいマニアックな作品がそろっていたにも関わらず、内容的には満足を得られるほ…

ジジ・マンチェスの真実

ジジ・マンチェスの真実は? おどけた眼。 無邪気なしぐさ。 黒い毛。 自然なふるまいの中に、 知性がひかる。 彼女は悩む。 どうか、いまの気持ちにおぼれないで。 しっかり前を見ていて、 他人の眼を気にしない、 強い自分を感じていて、 大空を舞う鳥のよ…

アリス・シーボルド「ラブリー・ボーン」

本書の主人公のスージーは、十四歳という若さで理不尽に命を絶たれてしまいます。 レイプされバラバラにされて最後まで彼女の遺体は肘の一部しか見つかっていませんでした。残された家族はみなそれぞれの方法でこの信じがたい我が身に起こった悲惨な事件をな…

筒井康隆「愛のひだりがわ」

ただの児童書にはない現実の厳しさが描かれている。 そこは筒井康隆のこと、少々世界がゆがんでる。ことさら説明があるわけでもなく、読者はいきなりその世界に投げ込まれる。時は近未来、警察の機能は停止し、人々は自警団を結成して生活を守っている世界。…

ロバート・R・マキャモン「ブルー・ワールド」

長、短どちらも器用に書ける作家は数少ない。キングにしたって、長編はあれだけ素晴らしいのに短編になると、途端にB級っぽい素地が強調されて読めたものではない。 しかし、マキャモンは違った。彼は短編も器用にこなす作家だった。 マキャモンが登場した…

「帰る途中」

街灯のあかりが葉にもれて君が哀しい。 町の塗装工場は夜遅くまで作業を続け、夜空に真っ赤な煙を吐きだしている。 ガシャンッ。 どうやら帰宅途中のOLと 運送トラックがぶつかったらしい。 ぼくは、口笛を吹きながら、家に帰る途中。 女の声。 助けを求め…

泡坂妻夫「亜愛一郎シリーズ」

奇妙なロジックを操らせたら泡坂妻夫の右にでるものはいない。 紋章上絵師でありマジシャンでもあるこの稀代の推理作家は、固定観念にとらわれない驚くほど柔軟な 脳みそを所有しているらしい。 そんな彼のトリッキーな短編を十二分に堪能できるのが、この亜…

ブルース・チャトウィン「ウッツ男爵」

くすぐりの上手い小説だ。謎が未解決のまま終わっているのに、まったく不満に思わない。 いろんな解釈があとに残されるわけだが、とりあえずぼくはこのままでいいと思う。 ていうか、謎を解明するのに再読してじっくり考えるなんてできない(笑)。 なんにせ…

夢枕獏「幻獣変化」

夢枕 獏は、菊地秀行とならんでいまではまったく読まなくなってしまった作家なのだが、一時期エロティックバイオレンスが流行ったときは、よく読んだ。あの魔獣狩りシリーズも全部読んだし、サイコダイバーシリーズも読んだ。しかし、この人との出会いは「ね…

トム・ロビンズ「カウガール・ブルース」

これはねえ、まったくもってうれしくなっちゃう本ですよ。 まず、全体からにじみ出ているユーモアがいい。語り口の軽妙さが、まったく新鮮で壁に頭を打ちつけたくなるほど楽しい。 例えばそれは、とんでもない前置きから物語へと入ってゆく各章の楽しさであ…