読書の愉楽

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夢枕獏「幻獣変化」

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夢枕 獏は、菊地秀行とならんでいまではまったく読まなくなってしまった作家なのだが、一時期エロティックバイオレンスが流行ったときは、よく読んだ。

あの魔獣狩りシリーズも全部読んだし、サイコダイバーシリーズも読んだ。しかし、この人との出会いは「ねこ弾きのオルオラネ」だったのだ。なんともやわらかいファンタジーで、少女漫画の世界のようだった。だから、最初この人のバイオレンス物を読んだとき、ほんとに同一人物なのかと思ったほどである。

今回紹介する「幻獣変化」は、そんな彼の初期のころの作品。

魔獣狩り以降の獏作品はまったく読んでないのだが、それ以前の彼の作品の中ではこの本が一番好きである。

この作品は、夢枕 獏の処女長編である。その後続きが書かれて、いまは「涅槃の王」シリーズになっているみたいだが、本書はその第一巻の部分にあたる。

本書の主人公は若きシッダールタである。そう、後の仏陀だ。彼が10年に一度実を結ぶという不老長寿の謎を秘めた「涅槃の果実」を求め、高さ七千メートル、幹の直径千五百メートルというヒマラヤ並の巨木「雪冠樹」を目指し魔界ナ・オムを旅する。

たったそれだけの話だ。だが、これが無類におもしろかった。出てくる幻獣たちも類型を脱してオリジナリティにあふれていたし、文章もその後に夢枕 獏の定番となったスカスカの改行文ではなかった。

その後のシリーズは読んでないし読む気もないのだが、とにかくこの「幻獣変化」だけはずっと記憶に残り続けている。ファンタジーの傑作なのである。