読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ウィリアム・ゴールドマン「プリンセス・ブライド」

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 ウィリアム・ゴールドマンといえば、「明日に向かって撃て」、「華麗なるヒコーキ野郎」最近では、S・キングの映画化作品の脚本で有名だが、作家としても並々ならぬ力量をそなえている万能の人である。「マラソンマン」、「マジック」そして今回紹介する「プリンセス・ブライド」の原作者としても有名で、つい最近早川名作セレクションで「マラソンマン」が再刊されたばかりである。

 「マラソンマン」そしてその続編の「ブラザーズ」どちらもぼくは未読なのだが、映画「マラソンマン」はずいぶん昔に観た。このダスティン・ホフマンが主演していた映画で印象に残ってるのは、やはりあの拷問シーンだ。とにかくあれは痛い。観ている者にまで確実に痛さが伝わってくる。ギュイーンって音が耳から離れなくなってしまう^^。

 前置きはこれくらいにして。

 本書は、そんなゴールドマンが書いた唯一のファンタジーである。

 だが、これの体裁がいかにも彼らしくお遊びに満ちている。本書はゴールドマンが世界一気に入ってる本、フローリン国の文豪・モーゲンスターンの『プリンセス・ブライド』をゴールドマン自身が物語の面白い部分だけを抜粋編集したという体裁になっている。元本は、真実の恋と手に汗握る冒険物語の名作というふれこみなのだが、フローリン国に関する長ったらしい記述があったりして余計な部分も多いらしい。そこでゴールドマンが単純に物語を楽しめるように娯楽抜粋版として編集したということなのだ。

 だから本書には、ところどころ物語を中断してゴールドマン自身が注釈をくわえてくる。早川文庫唯一の二色刷り黒字は物語、赤字はゴールドマンのコメントという初の試みがされている。

 そう、なにからなにまでお遊びで出来ているのだ。

 それでいて一級のエンターテイメントに仕上がっているのは素晴らしい。

 まったく虚構の本をでっち上げるのもさることながら、それをゴールドマンが思い出の書として抜粋版で紹介したのが本書という体裁も、途中に入ってくるゴールドマンのコメントも、小説の中の登場人物の会話も、話自体も、ほんとに人をくった楽しいものである。

 剣と魔法の物語を、さらに虚構にくるんではじめっから煙に捲いてしまうセンスには脱帽だ。

 自分もこういうお話を書きたいと素直に思ってしまう。

 ほんと楽しい本であります。