読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

中山可穂「深爪」

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 二冊目の中山可穂である。薄いからすぐ読めてしまう。

 だが内容は結構ヘヴィで、でも読了してみればちょっと心が軽くなるという変わった本だった。

 中山可穂の描く恋愛はレズビアンという神にも祝福されない恋愛を扱っていながら、切実さと登場人物の不器用さに読んでる方も思わず熱くなってしまう。

 本書は三人の視点から物語が描かれる。

第一章は、ポルトガル文学の翻訳家でレズビアンのなつめの視点。

第二章は、そのなつめと不倫?関係を結んでしまう奔放な性格の主婦吹雪の視点。

第三章は、吹雪の夫で、妻を女に寝取られ一生懸命まだ幼い一人息子の世話をするマツキヨの視点。

 感情移入という点でいえば、第三章の妻に去られた夫マツモトキヨシ氏が一番感情移入しやすいように思えるのだが、そんなことはない。これが思ってもみない展開をみせる。そうくるかあ。なるほど、でもぼくにはありえない話だ。

でも、やっぱりせつなさは感じてしまう。男でも、こんなおっさんでも、中山可穂の紡ぎだす話にはせつなさを感じてしまう。せつなさと激情。うまくいえないが、この二つを原動力にして彼女の世界は広がっていく。ほとんど無縁の世界ゆえ、憧れにも似たせつなさを抱いてしまうのかな。