読書の愉楽

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ロバート・R・マキャモン「ブルー・ワールド」

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 長、短どちらも器用に書ける作家は数少ない。キングにしたって、長編はあれだけ素晴らしいのに短編になると、途端にB級っぽい素地が強調されて読めたものではない。

 しかし、マキャモンは違った。彼は短編も器用にこなす作家だった。

 マキャモンが登場した当時、彼はキングの二番煎じばかり書いてるといわれた。それでもキング、クーンツに続くモダンホラー界の第三の男として日本に紹介された頃は、結構好評だった。

 二番煎じだとしても、確かにマキャモンの書くものはおもしろかったのだ。だから、長編としての彼の力量は誰もが知ることとなった。

 そんな彼の短編が我が国ではじめて紹介されたのが「ハードシェル」だった。この本の中でマキャモンは三編の短編を書いている。この本を読んだホラー・マニアはきっと瞠目したはずだ。マキャモンは短編も素晴らしいと。

 そして、ようやく紹介されたのが本書「ブルー・ワールド」だったのである。読んで納得、鶴首して待った甲斐があったと思わず溜飲を下げてしまう傑作中短編集だった。

 本書には十二編の短編と表題作である中編「ブルー・ワールド」がおさめられている。内容は、ジャンルを超越していてすこぶるおもしろい。ホラーもあればSFもあるし、アメリカンコミック風の活劇あり、ファンタジー幻想譚あり、奇妙な味ありとバラエティーに富んでいる。

 なかでも特筆すべきは表題作「ブルー・ワールド」だ。この短めの長編ともいうべき(260ページ)長さの作品は、ポルノ女優に恋した神父の苦悩とエロティックな妄想を描き、それに連続殺人鬼をからめた超自然的要素をいっさい排除したノン・ホラーであり、一読忘れがたい印象を残す。

 その他、アメリカ南部を舞台にマキャモンが得意とする不気味さが強調された「スズメバチの夏」、ロッド・サーリングが喜びそうな『ミステリー・ゾーン』にうってつけの恐怖譚「メーキャップ」、ベトナム戦争を効果的に使った鳥肌ものの「ミミズ小隊」、破滅後の世界をブラッドベリ風に味つけした逸品「アイ・スクリーム・マン」、マーベルコミックの世界とディック・トレーシーの世界が融合しちゃった「夜はグリーン・ファルコンを呼ぶ」などなど、どれをとっても満足すること請けあいである。

 残念なのは、本書が現在品切れだということ。どうしてこんな傑作が品切れなんだろう?売れ筋の本ではないのだろうけど、こうしていい本がただの売れる本に淘汰されていくのを見るのは偲びない。

 哀しいことだなあ。