何年も前だが、はじめて書店で本書の単行本を見たときは、その異常な分厚さと改行のない真っ黒に埋
めつくされたページ、それと『鬱』というインパクトのあるタイトルから、たいそう凄い本だなと身構
えた記憶がある。
本書は一気に読むには重すぎる。ぼくは、車中本として三ヶ月かけて読んだ。ゆえに十分堪能した。
まさしく圧倒的な質量である。
しかし、本書を読んで得るものはない。感動もなければ、充足感もない。車窓を流れる景色のように、
当たり前で心に残る余韻もない。
萬月氏の吐きだした心の内を、ただただ偏執的にたどっただけである。本書はなんなんだろう?
哲学、思想、宗教、生、死、性、あらゆることを病的に煮詰めてつくった寄せ鍋か。
激しくなく、かといって冷静でもない。人間の内宇宙が描かれているのだ。とても小さな身の内なのだ
が、果てしなく広大なのだ。
少し危険かな。
解説でも言及されていたが、本書には毒がある。けっしてフタをしてはいけない毒物だ。この毒は、身
体にとりこまなくてはならない。その危険を冒して強くならなければいけないのだ。