横溝正史は、ほとんど読んだことがない。「獄門島」も「本陣殺人事件」も「八つ墓村」も、みんなテ
レビドラマか映画で観てしまった^^。彼の作品は短編集を何本か読んだだけである。
なのに、この本を読んでしまった^^。
しかし、これがめっぽうおもしろい。
本は読んでないが、作品の内容は知ってるわけだからまったく支障なかった。
本書のインタビューは四部構成になっている。
第一部 「新青年」編集長時代から喀血まで
第二部 自作を語る
第三部 同時代作家の回想
第四部 クリスティーの死と英米の作家たち
これに資料として横溝正史のエッセイ「探偵茶話」、乱歩による「本陣殺人事件」評、安吾による「蝶
々殺人事件」評、淋光による「獄門島」評がついている。
正史の探偵作家としての歩みが手にとるようにわかる。さまざまな人との出会い、作家になった経緯、
作品の成立過程(乱歩によれば、本陣殺人事件はドイルの「ソア橋事件」を元ネタにして書かれている
ということだが、そうではなくてスカーレットの「エンジェル家の殺人」が元になってるなんて話が出
てくる)などなど興味つきない話ばかりなのである。
正史が読んできた海外作品の寸評などもおもしろい。カーの「プレーグ・コートの殺人」は褒めて、「
盲目の理髪師」はちょっと違うと言ったり、金田一耕助のモデルがミルン「赤い館の秘密」に出てきた
アンソニー・ギリンガムだという話が出てきたり、「グリーン家殺人事件」ではファイロ・ヴァンスが
出しゃばらなければ、もっと早く事件が解決していたはずだと言ったり、まことに楽しい。
戦中戦後の乱歩とのやりとりや、「獄門島」の成立過程などは、ほんとエキサイティングだった。
横溝正史は乱歩と並んで日本のミステリ界では永遠に忘れられることのない二大巨頭だと思う。
そんな巨匠のありし日の微笑ましい横顔に接することができて、少しうれしく思った。