読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外ミステリ

チャールズ・ウィルフォード「拾った女」

そんなに読み込んでいるわけでもないから、あんまりエラそうなことは書けないが、ぼくはこの人のマイアミ・ポリスのシリーズを二冊読んでいて、てっきりあの世界観がこの人の持ち味だと思っていた。ま、あのシリーズにしても「マイアミ・ブルース」は別物で…

ドン・ウィンズロウ「カルテル(上)」

まだ上巻を読み終わっただけだが、ぼくは書く。書かずにはいられない。 本書は、軽妙なドン・ウィンズロウのまったく違う面を思い知らされたあの傑作「犬の力」の続編である。麻薬王アダン・バレーラとそれを執念で追いかける麻薬取締局の捜査官アート・ケラ…

ジャック・ケッチャム「オンリー・チャイルド」

ぼくのケッチャム初体験は本書だった。確か本書が刊行された前年に「ロード・キル」が刊行されて、それがケッチャムの本邦初訳だったと記憶する。スティーヴン・キングの強烈なプッシュで紹介されたケッチャムだが「ロード・キル」は様子見のまま現在も未読…

ピーター・ラヴゼイ「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」

ミステリ好きなら御存じのとおり、ラブゼイって人は長編も短編もどちらも素晴らしい手並みをみせてくれる達人なのだが、、この第ニ短編集は第一短編集である「煙草屋の密室」よりは少し落ちるかな?いまでは二冊とも品切れ?「煙草屋の密室」だけでもどうに…

ウィリアム・ピーター・ブラッティ

ブラッティは神と大いなる力に魅せられた作家だとおもう。彼の代表作である「エクソシスト」からして根本は神の実在の証明みたいなものだ。あの映画の強烈なビジュアルゆえに、あのシリーズの存在だけで彼にホラー作家のレッテルを貼っている人は数多いと思…

チャーリー・ラヴェット「古書奇譚」

本書は三つの章が順繰り語られてゆき、全体を構成している。一九九五年の現在の章、一九八三年~一九九四年の少し過去の章、そして一五九二年~一八七九年のシェイクスピアの謎が解明される章。それぞれがラストに向けて集約されストーリーをのぼりつめてゆ…

フェルディナンド・フォン・シーラッハ「カールの降誕祭」

非常に薄い本だ。解説を含めても百ページに満たない。その中に短編が三つ収録されている。それぞれいつものとおりシーラッハ独特の短いセンテンスの文章で綴られる不条理な話ばかり。 巻頭を飾るのは「パン屋の主人」。ここに登場するパン屋は、「コリーニ事…

ルネ・ナイト「夏の沈黙」

破格のデビュー作なのだそうである。本書の出版権をめぐって熾烈なオークションの争奪戦が繰りひろげられ、最高の高値で落札されたのだそうな。で、その内容が、引っ越しのゴタゴタの中で紛れ込んでいた本を読んでみるとそこには20年前の自分の事が書かれ…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「禁忌」

前作の「コリーニ事件」を読んだのがちょうど二年前の7月だった。初の長編ということで、多大な期待を寄せて読んだのだが、そこで扱われている事件の謎がぼくの予想していたとおりの真相だったので少々肩すかしをくった。やはりシーラッハは短編向きの作家…

ウィリアム・モール「ハマースミスのうじ虫」

簡単に説明すれば、本書の内容はある犯罪者を追いつめる話なのである。発端は、本書の主人公である青年実業家のキャソン・デューカーがクラブで醜態をさらす銀行の重役ヘンリー・ロッキャーに注目したところからはじまる。このキャソンという男、素人のクセ…

ジェイムズ・エルロイ「クライム・ウェイヴ」

本書は小説や犯罪ルポやエッセイなどを収めたエルロイの作品集だ。普通、こういうフィクションとノンフィクシションが混在してる本を読むと、それが同じ作者のものであったとしても温度差を肌で感じてしまうものなのだが、エルロイはその境界がまったくなく…

R・D・ウィングフィールド「冬のフロスト(上下)」

毎回同じような悲惨な事件が頻発し、ワーカホリックな我らが最低下品ジョーク連発親父のフロストが右往左往、東奔西走、粉骨砕身しながらぜいぜいはあはあと事件を追いかける話がどうしてこんなにおもしろいのか? 言うまでもなくそれはひとえにフロスト警部…

リンウッド・バークレイ「崩壊家族」

前回「失踪家族」を読んでかなり気に入ったリンウッド・バークレイの新作である。前回に続いてまた家族のつくタイトルだが、これはあまりいただけない。家族しばりでタイトルにこだわらなくてもいいのにね。しかし、本書もひとつの家族がおちいる窮地が描か…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「コリーニ事件」

シーラッハ初の長編ということで期待して読んでみたが、これがとてもオーソドックスな作品で前二作の短編集とはまたった印象をもった。今回の事件はとてもシンプルだ。もう古希に手がとどきそうな老人が大金持ちの実業家を射殺し自首した。だが、彼は殺した…

ハドリー・チェイス「ミス・ブランディッシュの蘭」

チェイスが本書によってデビューしたのは戦前のこと。ハメットによってハードボイルドが生みだされ、丁度チャンドラーが「大いなる眠り」を発表した頃だ。よって、チェイスは英国初のハードボイルド作家となった。本書はそういうなんとも古臭い本なのである…

ジョイス・キャロル・オーツ「とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢」

ジョイス・キャロル・オーツは、多作にも関わらず日本での紹介が行き届いていない、かわいそうな作家だ。彼女の短編集にしたって18年前に刊行された「エデン郡物語」が一冊あるだけで、小説に限ればその他はYA作品と何冊かの長編があるだけだ。もっとも…

ヘレン・マクロイ「小鬼の市」

ヘレン・マクロイは、読んでみればかなりおもしろいミステリを書く人だなといつも感心するのだけれど、イマイチ日本での紹介が系統だってないのでよくわからない部分があった。本書にしても、既に紹介されている「暗い鏡の中に」や「幽霊の2/3」そして「…

ウィリアム・ピーター・ブラッティ「ディミター」

実をいうと「エクソシスト」は読んでいない。ぼくがこのブラッティを意識しだしたのは読み応え抜群のアンソロジー「999 狂犬の夏」に収録されていた中編「別天地館」でだった。これは幽霊屋敷物でありながらミステリとしての結構も備えたハイブリットで、…

マイケル・バー=ゾウハー「エニグマ奇襲指令」

ナチス・ドイツが使用していた実在の暗号機『エニグマ』。ドイツ軍はこの暗号機を占領下のフランスに27台所有していた。そのうちの一つを悟られることなく盗みだす。この限りなく不可能に近い密命を帯びて、かつてゲシュタポから金塊を盗んだことのある大…

ロジャー・スミス「血のケープタウン」

いまさらながら、本書を読んでいて海外は怖いなあと思うのである。本書の舞台は南アフリカのケープタウン。いうまでもなく世界でも有数の犯罪都市だ。麻薬常習者、ギャング、悪徳警官そして罪を犯してアメリカから逃亡してきた一組の家族。役者が出揃ったと…

アーナルデュル・インドリダソン「湿地」

アイスランド発の警察小説なのである。無論、ぼくもこの地で生まれた小説を読むのは初めてだ。ま、大抵の人がそうなんじゃないの?アイスランドに一番近い国で読んだことのある小説はスウェーデン発のミカエル・ニエミ「世界の果てのビートルズ」。これは最…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「罪悪」

シーラッハ短編集の二作目である。今回は前回にもましてコンパクトにまとめてあって、遅読のぼくがほんの数時間で読了するくらいスルスルと読めてしまった。長いものでも30ページ短いのならほんの3、4ページの作品ばかりだから読みやすいことこの上ない…

トム・フランクリン「密猟者たち」

トム・フランクリンといえば、昨年ハヤカワポケットミステリから刊行された「ねじれた文字、ねじれた路」が話題になった作家なのだが、これは読みかけてノレず一旦手放した。「二流小説家」とあわせてまた読むことになるだろうが、本書はそのフランクリンの…

ジョー・R・ランズデール「ダークライン」

本書は追想の物語なのである。五十代後半のスタンリーが過去の出来事を振りかえる形で物語が進んでゆく。時は一九五八年、十三歳のスタンリーは家族と共にテキサス東部のデューモントという町に引っ越してくる。そこで売りに出されていたドライヴ・イン・シ…

スティーヴ・ハミルトン「解錠師」

幼い頃に悲惨な体験をして、そのことが原因で一言もしゃべれなくなってしまった少年マイクル。彼にはどんな錠前でも開けてしまう特殊な技能と、物事をしっかり記憶してそれを描写する才能があった。高校生になった彼はあることがきっかけで裏の世界とかかわ…

マーティン・ウォーカー「緋色の十字章 警察署長ブルーノ」

舞台はフランスの片田舎。近くに有名なラスコーの洞窟壁画のある風光明媚な村サンドニ。住民はみんなが顔見知りで、誰が何をしたかなんて噂がすぐに村中をかけまわる。主人公である村でただひとりの警官兼警察署長のブルーノはこの村とそこに住む人々を心か…

ジェフ・ニコルスン「装飾庭園殺人事件」

英国お得意のちょっと悪趣味で普通じゃないミステリ。悪趣味といったら語弊があるかもしれない。だってここで描かれる様々な事柄って、人間にはつきものなのだから。それがモンティパイソンに連なるイングランド式ブラックジョークで少し強調されているのが…

アーバン・ウェイト「生、なお恐るべし」

脛に傷もつ身のフィル・ハントは小さな牧場を経営するかたわら、麻薬の運び屋として生計をたてていた。子宝に恵まれることもなく妻と二人細々と暮らしている彼はもう五十四歳、やり直しのきかない人生に諦念を感じていた。しかし、彼はいままで一度も仕事を…

ドン・ウィンズロウ「フランキー・マシーンの冬(上下)」

凄腕だった殺し屋が、いまは現役を引退してサンディエゴで堅気として暮らしている。釣りの餌屋と不動産屋とリネンサービスを掛け持ちし、朝のはやい『紳士の時間』に愛するサーフィンをすることを生甲斐にしている62歳。別れた妻とも良好な関係を結び、愛…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「犯罪」

ドイツの高名な刑事事件弁護士である著者による「犯罪」を扱った短篇集である。11篇の短篇が収録されているにも関わらず、200ページ強というコンパクトな内容で、1篇がおよそ10~30ページとすこぶる読みやすい。だがその内容はいろんな意味でかな…