読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

海外ミステリ

C・J・ボックス「沈黙の森」

遅れてきた読者でございます。だって、もうシリーズ9巻刊行されてるんだもの。でも、ぼくは用意周到だから、この一巻目を読んでいる間に他の巻全て集めました。そんな早まったことして、一気に買って、面白くなかったらどうすんの?と心配してくれた奇特な…

陳浩基「13・67」

短編集なのだが、かなり読み応えがあった。舞台は香港。行ったこともないし、その歴史にも疎い。言ってみれば、全く馴染みもないし、グローバルな文化の成り立ちが内包する混沌とした秩序のなさにも途惑うばかりだ。 にも関わらず、この最初から反発しか感じ…

ジャック・ケッチャム、リチャード・レイモン、エドワード・リー「狙われた女」

ジャック・ケッチャムと今は亡きリチャード・レイモンそして彼らの親友だという日本ではまだ知名度の低いエドワード・リーの三人がそれぞれ『狙われる女性』を描いた作品集なのであります。 読み始める前は、弱者としての女性が何者かに狙われ窮地に立たされ…

スティーヴン・キング「ファインダーズ・キーパーズ(上下)」

キングの本格ミステリー第二弾ということで、巨匠のクライムサスペンスなのでございます。相変わらず物語をグイグイ引っぱってゆく手腕はさすがと唸ってしまう。しかし、それが筋を追うだけの薄っぺらいものでないのはあたりまえ。キングって何歳になっても…

R・D・ウィングフィールド「フロスト始末(上下)」

フロストとの出会いは、ぼくがまだ結婚する前の1994年だった。このシリーズとウィンズロウのニール・ケアリーのシリーズが、いつも追いかけっこする形で刊行されていたような記憶があり、ぼくはこの二つのシリーズが刊行されるのをいつも心待ちにしてい…

スティーヴン・キング「ミスター・メルセデス(上下)」

キング御大初のミステリ長編なのであります。といっても、何がどう変わっているかといえば、何も変わらずいつものキングなのであります。ま、本書が正攻法のミステリとして書かれた作品として大きく取り上げられた上にエドガー賞まで獲ってしまったから『初…

スティーヴン・キング「ジョイランド」

正直、一時のキングにはときめいていなかったのだ。そう、丁度「骨の袋」が刊行されたころからだろうか?その後に出た「トム・ゴードンに恋した少女」、「アトランティスのこころ」、「ドリームキャッチャー」、「セル」までまったく読まなくなってしまった…

ドン・ウィンズロウ「ザ・カルテル(下)」

本書で描かれるエピソードはもちろんフィクションだ。しかし、この物語には数々のモデルがある。カルテルに襲撃され満身創痍になり人工肛門をつけて殺されるまで勇敢にも執務を遂行した女性市長や、見せしめのために顔の皮を剥がされ手足をバラバラに切断さ…

チャールズ・ウィルフォード「拾った女」

そんなに読み込んでいるわけでもないから、あんまりエラそうなことは書けないが、ぼくはこの人のマイアミ・ポリスのシリーズを二冊読んでいて、てっきりあの世界観がこの人の持ち味だと思っていた。ま、あのシリーズにしても「マイアミ・ブルース」は別物で…

ドン・ウィンズロウ「カルテル(上)」

まだ上巻を読み終わっただけだが、ぼくは書く。書かずにはいられない。 本書は、軽妙なドン・ウィンズロウのまったく違う面を思い知らされたあの傑作「犬の力」の続編である。麻薬王アダン・バレーラとそれを執念で追いかける麻薬取締局の捜査官アート・ケラ…

ジャック・ケッチャム「オンリー・チャイルド」

ぼくのケッチャム初体験は本書だった。確か本書が刊行された前年に「ロード・キル」が刊行されて、それがケッチャムの本邦初訳だったと記憶する。スティーヴン・キングの強烈なプッシュで紹介されたケッチャムだが「ロード・キル」は様子見のまま現在も未読…

ピーター・ラヴゼイ「ミス・オイスター・ブラウンの犯罪」

ミステリ好きなら御存じのとおり、ラブゼイって人は長編も短編もどちらも素晴らしい手並みをみせてくれる達人なのだが、、この第ニ短編集は第一短編集である「煙草屋の密室」よりは少し落ちるかな?いまでは二冊とも品切れ?「煙草屋の密室」だけでもどうに…

ウィリアム・ピーター・ブラッティ

ブラッティは神と大いなる力に魅せられた作家だとおもう。彼の代表作である「エクソシスト」からして根本は神の実在の証明みたいなものだ。あの映画の強烈なビジュアルゆえに、あのシリーズの存在だけで彼にホラー作家のレッテルを貼っている人は数多いと思…

チャーリー・ラヴェット「古書奇譚」

本書は三つの章が順繰り語られてゆき、全体を構成している。一九九五年の現在の章、一九八三年~一九九四年の少し過去の章、そして一五九二年~一八七九年のシェイクスピアの謎が解明される章。それぞれがラストに向けて集約されストーリーをのぼりつめてゆ…

フェルディナンド・フォン・シーラッハ「カールの降誕祭」

非常に薄い本だ。解説を含めても百ページに満たない。その中に短編が三つ収録されている。それぞれいつものとおりシーラッハ独特の短いセンテンスの文章で綴られる不条理な話ばかり。 巻頭を飾るのは「パン屋の主人」。ここに登場するパン屋は、「コリーニ事…

ルネ・ナイト「夏の沈黙」

破格のデビュー作なのだそうである。本書の出版権をめぐって熾烈なオークションの争奪戦が繰りひろげられ、最高の高値で落札されたのだそうな。で、その内容が、引っ越しのゴタゴタの中で紛れ込んでいた本を読んでみるとそこには20年前の自分の事が書かれ…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「禁忌」

前作の「コリーニ事件」を読んだのがちょうど二年前の7月だった。初の長編ということで、多大な期待を寄せて読んだのだが、そこで扱われている事件の謎がぼくの予想していたとおりの真相だったので少々肩すかしをくった。やはりシーラッハは短編向きの作家…

ウィリアム・モール「ハマースミスのうじ虫」

簡単に説明すれば、本書の内容はある犯罪者を追いつめる話なのである。発端は、本書の主人公である青年実業家のキャソン・デューカーがクラブで醜態をさらす銀行の重役ヘンリー・ロッキャーに注目したところからはじまる。このキャソンという男、素人のクセ…

ジェイムズ・エルロイ「クライム・ウェイヴ」

本書は小説や犯罪ルポやエッセイなどを収めたエルロイの作品集だ。普通、こういうフィクションとノンフィクシションが混在してる本を読むと、それが同じ作者のものであったとしても温度差を肌で感じてしまうものなのだが、エルロイはその境界がまったくなく…

R・D・ウィングフィールド「冬のフロスト(上下)」

毎回同じような悲惨な事件が頻発し、ワーカホリックな我らが最低下品ジョーク連発親父のフロストが右往左往、東奔西走、粉骨砕身しながらぜいぜいはあはあと事件を追いかける話がどうしてこんなにおもしろいのか? 言うまでもなくそれはひとえにフロスト警部…

リンウッド・バークレイ「崩壊家族」

前回「失踪家族」を読んでかなり気に入ったリンウッド・バークレイの新作である。前回に続いてまた家族のつくタイトルだが、これはあまりいただけない。家族しばりでタイトルにこだわらなくてもいいのにね。しかし、本書もひとつの家族がおちいる窮地が描か…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「コリーニ事件」

シーラッハ初の長編ということで期待して読んでみたが、これがとてもオーソドックスな作品で前二作の短編集とはまたった印象をもった。今回の事件はとてもシンプルだ。もう古希に手がとどきそうな老人が大金持ちの実業家を射殺し自首した。だが、彼は殺した…

ハドリー・チェイス「ミス・ブランディッシュの蘭」

チェイスが本書によってデビューしたのは戦前のこと。ハメットによってハードボイルドが生みだされ、丁度チャンドラーが「大いなる眠り」を発表した頃だ。よって、チェイスは英国初のハードボイルド作家となった。本書はそういうなんとも古臭い本なのである…

ジョイス・キャロル・オーツ「とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢」

ジョイス・キャロル・オーツは、多作にも関わらず日本での紹介が行き届いていない、かわいそうな作家だ。彼女の短編集にしたって18年前に刊行された「エデン郡物語」が一冊あるだけで、小説に限ればその他はYA作品と何冊かの長編があるだけだ。もっとも…

ヘレン・マクロイ「小鬼の市」

ヘレン・マクロイは、読んでみればかなりおもしろいミステリを書く人だなといつも感心するのだけれど、イマイチ日本での紹介が系統だってないのでよくわからない部分があった。本書にしても、既に紹介されている「暗い鏡の中に」や「幽霊の2/3」そして「…

ウィリアム・ピーター・ブラッティ「ディミター」

実をいうと「エクソシスト」は読んでいない。ぼくがこのブラッティを意識しだしたのは読み応え抜群のアンソロジー「999 狂犬の夏」に収録されていた中編「別天地館」でだった。これは幽霊屋敷物でありながらミステリとしての結構も備えたハイブリットで、…

マイケル・バー=ゾウハー「エニグマ奇襲指令」

ナチス・ドイツが使用していた実在の暗号機『エニグマ』。ドイツ軍はこの暗号機を占領下のフランスに27台所有していた。そのうちの一つを悟られることなく盗みだす。この限りなく不可能に近い密命を帯びて、かつてゲシュタポから金塊を盗んだことのある大…

ロジャー・スミス「血のケープタウン」

いまさらながら、本書を読んでいて海外は怖いなあと思うのである。本書の舞台は南アフリカのケープタウン。いうまでもなく世界でも有数の犯罪都市だ。麻薬常習者、ギャング、悪徳警官そして罪を犯してアメリカから逃亡してきた一組の家族。役者が出揃ったと…

アーナルデュル・インドリダソン「湿地」

アイスランド発の警察小説なのである。無論、ぼくもこの地で生まれた小説を読むのは初めてだ。ま、大抵の人がそうなんじゃないの?アイスランドに一番近い国で読んだことのある小説はスウェーデン発のミカエル・ニエミ「世界の果てのビートルズ」。これは最…

フェルディナント・フォン・シーラッハ「罪悪」

シーラッハ短編集の二作目である。今回は前回にもましてコンパクトにまとめてあって、遅読のぼくがほんの数時間で読了するくらいスルスルと読めてしまった。長いものでも30ページ短いのならほんの3、4ページの作品ばかりだから読みやすいことこの上ない…