ここんとこ続いているエリスン本の刊行は、ほんと目覚ましいものがあるよね。関連本としてすごく驚いたのが「危険なヴィジョン」の完全版の刊行だ。これ、読む?どうだろう?オレ読むか?いや、ちょっと手でないよな。ぼく的にはそういった感触の本なのだが、今になってこれが刊行されたことに心底驚いてしまいました。
で、本書なのであります。ここに集められた11編は本来の彼の土壌であるSFではない、普通小説。先に読んだ「死の鳥」には「鞭打たれた犬たちのうめき」や「ソフトモンキー」なんていうミステリ作品もあったし、「ヒトラーの描いた薔薇」にも黒人差別を扱った「恐怖の夜」、「死人の眼から消えた銀貨」なんてのがあったが、本書にはSFは一編もないのであります。収録作は以下のとおり。
「第四戒なし」
「孤独痛」
「ガキの遊びじゃない」
「ラジオDJジャッキー」
「ジェニーはおまえのものでもおれのものでもない」
「クールに行こう」
「ジルチの女」
「人殺しになった少年」
「盲鳥よ、盲鳥、近寄ってくるな!」
「パンキーとイェール大出の男たち」
「教訓を呪い、知識を称える」
ま、タイトルだけみてもあまり参考にはならないだろうけど。ぼくが気に入ったのは『堕胎小説』というジャンルがあれば、必ず名が挙がるだろうと思う「ジェニーはおまえのものでもおれのものでもない」。これは助長なきらいはあるけれど、それを補ってあまりある雰囲気を持つ作品だ。ロード・ノヴェルとしての側面も無視できないし、結末が簡単に予測できたとしても心に残りうる作品だと思う。これが書かれた時代の世相をよく知ればさらに、感度はアップする。
あとは、ラスト三編が特にいい。「盲鳥よ、盲鳥、近寄ってくるな!」は、フラッシュバックの技法を使い、三つの角度から閉塞感の恐怖を描く。よくある手法だが、その切り取り方がやはりうまいんだよなあ。残り二つ「パンキー~」と「教訓~」はエリスンの実体験が反映されているらしい。でも、そこはエリスン、これが普通の展開になるわけない。どちらも、熱にうかされたような狂騒と予想を裏切る着地に拍手したくなる作品なのだ。
しかし、本書は先に刊行された三冊の短編集にくらべると派手さはない。そりゃ、非SFだからね。だから本書からエリスンを紐解くのは常套ではないかもしれない。本質はそこにないから。でも、SFが苦手な方は本書から入るのもありかもしれない。本質の片鱗はうかがえるからね。
どちらにしても、エリスンはぼくにとって気になり続ける作家なのであります。