「ギリシャSF傑作選 ノヴァ・ヘラス」 でギリシャのSFというものに初めて触れ、驚いた。やはり主流的な吸引力や派手さ、または痛快さや感動とは程遠い印象で、でもそんなバルカン半島に位置する小さな、でも雄大な歴史を持つこの国でささやかに花咲いたSFの風を感じることができた喜びは素晴らしいものだった。
で、今回そのギリシャのミステリ傑作選が刊行されたのでまたまた読んでみたというわけ。収録作は以下の通り。
アンドレアス・アポストリディス「町を覆う恐怖と罪――セルヴェサキス事件」
ネオクリス・ガラノプロス「ギリシャ・ミステリ文学の将来」
ティティナ・ダネリ「最後のボタン」
ヴァシリス・ダネリス「バン・バン!」
サノス・ドラグミス「死せる時」
アシナ・カクリ「善良な人間」
コスタス・Th・カルフォプロス「さよなら、スーラ。または美しき始まりは殺しで終わる」
イエロニモス・リカリス「無益な殺人未遂への想像上の反響」
ペトロス・マルカリス「三人の騎士」
テフクロス・ミハイリディス「双子素数」
コスタス・ムズラキス「冷蔵庫」
ヒルダ・パパディミトリウ「《ボス》の警護」
マルレナ・ポリトプル「死への願い」
ヤニス・ランゴス「死ぬまで愛す――ある愛の物語の一コマ――」
フィリポス・フィリプ「ゲーテ・インスティトゥートの死」
これね、前半の8作品は、これがギリシャのミステリってものなの?と、少し距離をおいて見てしまうようなとっつき難さがあって、ストレートにこちら側に響いてこない感じがした。表題作なんて、ちょっと説明しづらいこみいった作品で、試みはおもしろいんだけど、ギリシャにもギリシャのミステリにも新参のぼくには少し荷が重かった。なんか内輪のおもしろさみたいなもんもあるだろうしね。
それがですよ、後半になるとこれがまた今までのは何だったの?てくらいわかりやすい話ばかりで、驚いてしまう。「三人の騎士」は、三人のホームレスのうち二人が惨殺された事件を残された一人のホームレスが囮になって犯人を追い詰めるという話で、単純明快この上ない。ま、ミステリ的にはひねりも何もないんだけど、読みやすさ抜群でぐいぐい読めちゃう。次の「双子素数」も、双子の片割れが無残な殺され方をしたのがどういう理由でか?というのが大きな謎で、それを残された双子の片割れがうにゃむにゃ・・・て話で、スピーディに事が運んでGOOD!
「冷蔵庫」は、このタイトルが比喩的に使われているんだけど、老人が両膝を撃ち抜かれたあとに殺されている理由は何なのか?というミステリ。これにはギリシャの暗い過去が絡んでくるんだけど、話は単純明快そのもの。ヨーロッパ各国にはこういう暗い影が過去を覆っているんだよね。
で、本書の中で一番ゴキゲンなのが「ボスの警護」ね。このボスってのがブルース・スプリングスティーンのことで、文字通りギリシャにやってきてコンサートを開くボスに脅迫状が届いたことから、厳重に警護する羽目になった警察の話。これは珍しくハッピー・エンドのお話なのだ。
というわけで、疲れたのでここまでにするが、ギリシャのSFに続いてギリシャのミステリ、みっちり、むっちり楽しませて頂きました。