読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

C・J・ボックス「裁きの曠野」

 

 

裁きの曠野 (講談社文庫)

裁きの曠野 (講談社文庫)

 

 

 やあ、ジョー、また会ったね。そう言ってぼくは本を開いた。彼は相変わらず忙しそうで、相変わらず頑固者だった。今回は、地元を掌握する何代も続く牧場の女牧場主オパール・スカーレットの失踪から物語は始まる。いっこうに見つかる気配はなく、生きているのか、死んでいるのかもわからない。残された三人の息子たちは、牧場主の座を狙って想像以上の争いを繰り広げる始末。それとは別に過去の事件に端を発する不穏な影もジョーの家族に近づいてきて…。

  本巻は、ゴシック仕立という触込みだったが、あまりそれは感じなかった。話自体は安定のおもしろさで、まあ見事にどんどん読まされてしまう。しっかり家族も描かれるので、成長していく娘たちの姿や妻メアリーベスとのあれこれも堪能させてもらって大満足。だが、いつものどんどん追い込まれて窮地に立たされて、それをどーんとはねのけてっていうカタルシスは、さほどなかった。いってみれば他力本願な解決?ま、これがジョー以外の誰かの手助けがなく、その結果顔見知りの誰かの命が奪われるなんて悲惨な結果を招いたとしたら、ぼく自身気力を取り戻して復活するのに何日かかるかわからないけどね。

  ワイオミングの壮大で荒ぶる自然。朴訥で洗練なんて言葉とはまったく無縁の男たち。地球の息吹をダイレクトに感じる気候の中で繰り広げられる人間ドラマ。いまぼくが生きている状況とはほとんどシンクロしないのに、どこか心落ち着く居所がある。そんな不思議な魅力がこのシリーズにはある。

  現在刊行されているシリーズ本は、最新刊「鷹の王」で11巻。本書が5巻目だからまだ半分。いやいやこれからまだじっくりジョーたちとお付き合いさせてもらえるわけだ。大事にゆっくり読んでいこうと思う。