読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ホリー・ジャクソン「優等生は探偵に向かない」

優等生は探偵に向かない 自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)

 続けて読みました。本書の冒頭で前回の「自由研究には向かない殺人」の犯人がバラされているので基本的には前作から読むことをお勧めします。でも、ウチの奥さんみたいに『ミステリでもなんでもラストを先に知りたい!』という人ならばノープロブレム。好きに読んじゃって下さい。

 というわけで、大方の人は前回の続きで本書を読むことになると思われるが、本書で描かれるのは、行方不明になったピップの友人であるコナーの兄ジェイミーの探索行だ。前回の事件の余波の中で痛い思いをしたピップはもう二度と素人がこういうことに手を出さないと固辞するが、警察がまったくアテにならないとわかって再び渦中に身を投じる。今回もピップはSNSを活用して事件の核心に迫ってゆく。前回の事件で時の人となった彼女はポッドキャストの配信をしていて、それが大好評となっているのだ。

 読了してみれば、やはりこれは一作目から順を追って読むべきなのだと痛感する。先に無責任にも本書から読んでも問題ないと書いておきながら、簡単に撤回してすいません。でもやはりこのシリーズは最初から順を追って読まなければならないのである。なぜならば、このシリーズは舞台となるイギリスの片田舎とそこに住む人たちすべてを巻き込んで、大きくうねってゆくからなのである。本書の重要な真実が実は、前回の「自由研究〜」の中で語られていたことに衝撃をうける。この分でいくと次の第三作も前回と本書を踏襲して描かれるのは必須。こんなこと、飴玉に目がない幼稚園児でもわかることだ。
 
 ピップは、今回も大きな痛手を受ける。それは、ただ単純に自分や自分の愛する人が物理的に危害を加えられるといった直接的なものでなく、心に深く食い込む信念が揺らぐような痛手だ。物語半ばでピップはすでに傷つき方向性を見失い、あてもなく彷徨ってしまう。何を信じればいいのか?自分が持ち堪えるにはどうすればいいのか?他人の思惑が鋭い鎌になって自分を傷つけるのに、どう対処すればいいのか?やがて光明が差し、辛いながらも再び立ち上がるピップ。しかし、追い求めた真実はさらに彼女を追いつめるのである。ここでぼくはピップの揺るがない立ち位置に感動する。まだまだ世間知らずな彼女。立ち向かっていくが逆風に倒れそうになる彼女。やり場のない怒りに我を忘れる彼女。剥き出しの生身のピップに恐れにも似た感情を抱いてしまう。

 さて、いよいよオーラスなのである。この先に待ち受ける運命に彼女はどう立ち向かってゆくのか?真摯に受け止めていきたいと思っております。