読書の愉楽

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スティーヴン・キング「任務の終わり(上下)」

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 「ミスター・メルセデス」、「ファインダーズ・キーパーズ」に続く『ホッジズ三部作』の最終巻であります。前回「ファインダーズ・キーパーズ」のラストで、あら、まさか、そっちに話がシフトしちゃうんですか!って驚きのまま終わってしまったのが、つい昨日のようでございます。

 で、本書なんですが、これがああた、もうミステリの範疇を軽々とこえちゃって、まさにキングの独壇場なのでございます。

 ことの発端は、六年前に起きた『メルセデス・キラー』による大量殺傷事件で重篤な後遺症を負った娘を道連れにした無理心中。高齢の母親は、まったく死ぬ素振りを見せていなかったのに、どうしてある日突然心中を決行したのか?さらに不思議なことに、調べを進めてみると同じ境遇のかの事件の生存者が心中していたことが判明する。

 もちろん、本書は三部作のラストを飾る巻なので、これを読む人は前ニ作を読んでいるというのが必須条件なのであります。その手順をふまないと、おもしろさは半減しちゃうからね。これは必ず守っていただきたい。だから、ぼくはいまこの文章を読んで初めてこの物語のことを知ったという人がいたとしたらという前提で話をすすめていく所存でございます。ということは、前ニ作の分も含めて、おもしろさを削がないようにネタばれには細心の注意を払わなければいけないということなんだよね。

 もともとキングは善と悪の対立を軸に据えて物語を構築する作家なので、このシリーズもそれを踏襲してすすめられていく。ここで描かれるのはそういった単純な構図のもとに成り立った物語なのだ。だから、読者は安心して物語に身をまかせられる。だって、必ず善は勝つってわかっているからね。あ、そういう無責任な期待を寄せてしまうのも、高齢になっていたって丸くなったキングのことを知っているからなんだけどね。

 とにかく、キングはそういう単純な構図の上に饒舌に世界を構築してゆく。この饒舌がキングの持ち味であって、それがあるからこそ紙面の上で人が生き、匂いが溢れ、街が色付くんだよね。キングの旨味はそこに尽きるといってもいい。およそ予想のつく結末でありながら、どうしても最後まで読まずにいられない(過去の彼の作品群の中には、結末の予想を快く裏切る作品も多かったんだけどね)。でも、実のところ、ぼくは少々不満でもあるのだ。あまりにも優等生的な物語展開が少し物足りないんだよね。これがあの「クージョ」と同じ作者の書いた作品なの?とちょっとヒネくれた目で見てしまう。しかし、それは昔からのファンのみが持つ過度な期待であって、本書がリーダビリティに優れたエンターテイメントであることに間違いはないのであります。

 さて、こうして『ホッジズ三部作』が幕を閉じたいま、今度はいったいどんな物語を展開してくれるのか、やっぱり期待してしまうんだよね。ほんとキングって罪な作家なんだから。