読書の愉楽

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デイヴィッド・グラン「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン: オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生」

 

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン: オセージ族連続怪死事件とFBIの誕生 (ハヤカワ文庫NF)

 思っていたのとは、ちょっと違ったな。確かに凄惨で私利私欲にまみれた身勝手な犯罪だ。しかも、規模がすごい。地域まるごと牛耳って自分の身を安全圏において余裕しゃくしゃくで犯行しているのが信じられない。

 しかし、しかしである。ここで語られるあまりにも非人間的な犯罪は、予測の範囲内だった。ぼくのね。心の中ではもっと悲惨で酷い事件の顛末が描かれるのかと思っていたが、そうなんだろなと思ってたとおりだった。

  でも、いまでは考えられない。1920年代といえば、日本じゃ大正時代。少し前までは西部開拓時代だったんだから、闇は真の闇であり、物事は理路整然とはいかず、なんにおいても取決めがゆるかった。だから、人は本能を優先し、道徳や法律の縛りなど意に介せず行動していたのだ。

 先住民としてインディアンがいて、それを力で屈した白人がいた。白人は、インディアンを蔑み蔑ろにした。もちろん、いい白人もいた。先住民を同等に扱う白人だ。危うい均整を保ちながら、誰もがそこそこ平和に過ごしていた。しかし、そこに莫大な量の石油資源があることが判明する。先住民であるオセージ族が所有する土地に眠る石油の利権を勝ちとった彼らは巨万の富を得ることになる。そこに群がる白人、そして不可解な殺人の幕が上がるのである。

 とまあ、内容はこんな感じ。全員がグルみたいな感じで隠蔽されていた犯罪が、いまのFBIの前身である捜査局によってふたたび捜査されることになる。

 本書のもう一つの読みどころとしてこのFBIの成り立ちも描かれる。若きJ・エドガー・フーヴァーが局長につき、次々と改革を進め、旧弊な組織を科学捜査にのっとった合理的でスマートな組織に変えてゆくさまが描かれる。へー、あの悪い噂しか聞かないフーヴァーがねー。

 というわけで、映画化を機に読んでみた。むしろ映画が楽しみになった。スコセッシ監督でデ・ニーロとディカプリオでしょ?絶対おもしろいじゃん!