読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

ホリー・ジャクソン「卒業生には向かない真実」

 

卒業生には向かない真実 自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)

 まさか、こんな展開になるなんて!いや、ほんと驚いた。この不穏な感じは前回の「優等生は探偵に向かない」でも垣間見えてたし、ピップがどんどん快活で明るい女の子から遠ざかってゆくのが苦しかったのだが、まさかねー。実際のところ大きな溜め息と共に肯定的な気分で本を閉じたのだが、心の片隅ではそれを容認しない自分もいた。自分なら違う選択をしていた。おそらく、読者の大半がそうなのではないかと思う。え?そんなことになるの?もう人生終わりじゃんって、本書の第一部まで読み終えた人のほとんどが思ったことだろう。第二部からは、読者と主人公であるピップの二人三脚といってもいい重く自由のきかない緊張感に包まれた展開となる。

 このシリーズの素晴らしいところは、三部作すべてが有機的に絡み合っているところだ。それぞれ単独の事件を扱っていながら、それがサーガともいうべき全体を覆った大きな物語となっている。いってみればこのシリーズは三冊に分かれているのではなく三章に分かれた一つの物語なのだ。結果的にぼくはこの三冊を通して読むことになったわけだが、それがすごく良かったと思っている。過去の事件のあの描写、あの人が言った言葉の意味、誰かがとったあの行動の裏にそんな意味があったのかと記憶が新しいから、立ち返ることなく物語をサクサク追いかけることができた。 

 さきほど二部からの展開について言及したが、これはほんとに息の詰まる思いだった。これほど緊張感を強いられる読書もまあないなと思うのである。かつて張りつめた緊張感に歯を食いしばりながら読んだ野沢尚「深紅」の第一章、二章や島田荘司の「アトポス」エリザベート・バートリの部もあったが、本書は、緊張感の上に使命感や共感や敗北感などが錯綜して、いままでにない読書体験となった。

 ほんと、こんなことある?ラスト、本当にあっさりとでもこれ以上ないほどスマートに物語が閉じられた時、ぼくの胸中には安堵と喜びの反面不安と恐れもあったのである。

 今回はできるだけ内容に触れないよう書いた。これを読んでこの長い三部作を読んでみようと思われる方が一人でも多く楽しめるように配慮したつもりである。長いって書いたけど読み始めたら、あっという間なので、そこはご心配なく。