読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

C・J・ボックス「震える山」

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 ジョー・ピケットの猟区管理官シリーズ邦訳第4弾でございます。(第2作が邦訳されていないので、本当は第5弾ね)。今回は自殺したジャクソンの猟区管理官の代理を務めることになったジョーの活躍を描く。まず、根本にあるのはその自殺が本当なのかどうかってことね。その謎を軸に新しい任地でジョーがあれやこれやと振り回されるさまが描かれる。ここらへんの呼吸はいつもの通り。新たな登場人物と、これまでの馴染みの人物たちと、すべてを無理なく自然に配し、それぞれがまったく違和感なくあたりまえに出し入れされるところはまったく素晴らしいとしかいいようがない。

 相変わらずジョーは、いい意味で堅物だ。まったくもって折れるということを知らない男なのである。そんなジョーが最愛の妻や娘たちと離れて新しい任地で出会う一人の女性。ああ、ジョー、きみもそうなのか?ぼくだったら、一発でノックアウトされて骨抜きになってしまう自信はあるけれど、きみは違うだろう?え?きみも?そうなっちゃう?ああ、ジョーだめだだめだ。その領域に踏み込んではいけないぞ!なんてことを心の中で叫びながら、やきもきと読み進めることいなる。500ページ近くあるのに、これだけの題材でまったくダレることなく最後までグイグイ読ませるのは、ほんと職人技だよね。

 無器用で、おのれの信念を決して曲げないジョ―。わかってはいても、それを見過ごすことができないジョ―。なのに、本当は心の奥で弱音も吐いてしまうジョ―。まったく、彼は等身大の普通の男だ。権力に対しては屈しない強靭さがあるのに、妻に対しては思うように事を進めることができないジョ―。特に、夫婦間の微妙なスレ違いによるトゲトゲした感じとか、すごくリアルでこういうのあるよねーなんて思ってしまう。

 それにしても、このアメリカ北西部の雄大で脅威的な自然の描写が素晴らしい。ド田舎なのに、なんて魅力的!一度この目で見てみたいものだ。実際目にしたアメリカの自然って、カリフォルニアのヨセミテくらいだもんな。あれでも、充分驚いたし。とにかくぼくはこのド田舎で、スポーツマンズ・スペシャル食いたいのだ!

 あ、書き忘れるところだった。ところでネイトはどうなったんだろうね?何が起こったのか、次の巻であかされるだろうね。それとは別に本書のラストのちょっとしたサプライズも、今後どう関係してくるのか興味津々。ジョ―、そっちへふらついたらいけないよ。ぼくだったら、自信ないけどね。