「犬の力」や「カルテル」のウィンズロウを期待すると肩透かしもいいところだ。ニューヨークを舞台にした悪徳警官物というカテゴリで認識して読み始めたら、え?ウィンズロウどうしたの?といままで快調に飛ばしてきたハイブリットな車がギアも満足にはいらないポンコツになってしまったかのような印象だ。
解説でもオビでもことさら本書が傑作のように謳っているが、けっしてそんなことはない。本書はウィンズロウ作品の中では下の下の出来なのである。
じゃあ、何がそんなに気に食わないのか?そのへんの事情を書いて本書の感想にしてみよう。
麻薬、ギャング、銃犯罪、汚職、権力抗争とこれだけのお題目が並べばさぞかし熱くて濃い血みどろの凄まじい話が展開するんだろうと思っていたら、これがまったく正反対なんだから驚いてしまう。あの「犬の力」や「カルテル」の極限の物語を期待していたら、まるで違う感触に萎えてしまいます。
とにかく主人公であるデニー・マローンがもがくのだ。警官として一番忌み嫌うネズミ(密告者)に成り下がってしまった自分が許せないにも関わらず、家族や仲間を救うためにどんどん追い詰められ、果てはその家族や仲間までをも危険にさらすことになる。まあ、読んでいて息苦しいことこの上ない。
スティーヴン・キングが相変わらずやってくれてます。言うにことかいて「ゴッドファーザーのような警察小説」だって。いやいや、ないない。どこがゴッドファーザーなの?あの傑作に匹敵する厳かな雰囲気も、非情の美学も、目を瞑れば自然と涙がこぼれるような詩情も皆無だ。
とにかく、これがウィンズロウの書いた小説じゃなかったなら、最後まで読み通さなかったっての。それくらいヘタレでどうしようもない話だったのだ。
もうひとつ驚くことにウィンズロウ自身が『これまでの自分の人生はすべてこの本を書くための準備期間だったのではないか』なんて言ってること。
いや、アニさん、なに言うてはりますのん。そんなワケおまへんやん。これが「犬の力」より上やなんてホンマにおもてはりますのん?冗談でっしゃろ?わて、ホンマよう言わんわ。
開いた口がふさがらない。