読書の愉楽

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マルク・パストル「悪女」

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 冷たさに驚いた。国が違うから?日本とスペインの温度差?文化の違い?なんとも形容しがたい感覚だ。

 物語は実話を元にしたものだそうで、概要だけみればいったいどれだけ凄いサイコキラーなんだと思ってしまうが、本書を読んだところその方面のサプライズはなかった。ここに登場する「ラバルの吸血女」と呼ばれた稀代の犯罪者はエンリケタ・マルティ・リポリェス。子どもを攫い、その血、臓物、脂肪などを原料に薬を作り、不治の病にも効く特効薬として富裕層の権力者たちに提供していたそうな。驚くべきサイコパスだよね。

 本書はその事件の顛末を描いている。しかし、これを語るのが全知の語り手となる死神なのだ。正直こういう演出はあまり馴染みがなかった。それで何か新しい試みがなされているのかといえば、そうでもないのが不思議なのだが、この部分が温度差なのかな?すべてにおいて、こちらの期待を裏切る形でストーリーは進行し、それを全知の死神が淡々と語ってゆくのである。

 恐ろしさが強調されているかといえば、そんなこともない。いったい何がどうなっているのかは具体的には描かれないし、全貌は最後まで明らかにならないのだ。いったい何が起こっていたのか?どういう過程を経て子どもたちは薬にされたのか?そこらへんの事情はまったくわからない。

 事実のみがあり、それを追う刑事たちがいて、事件が終息する。しかし、焦点がズレているので、望む部分が描かれず、読者としては少しモヤモヤした気持ちのまま読み進めることになる。ここらへんが、最初に温度差と書いた部分だ。なんとも不鮮明な感想になってしまったが、これが正直な感想だ。