読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

C・J・ボックス「ゼロ以下の死」

 

ゼロ以下の死 (講談社文庫)

 

 現代の西部劇なの?そうなのかあ。あまりそういうのは意識してないんだけど、西部劇って、こういうのかな。熱い男の激情。血と硝煙。大自然の厳しさと素朴な生活。追う者と追われる者。

 でも、毎回思うんだけどテーマが揮ってるんだよね。今回は環境問題。でも、そこには歪んだ信条がある。カーボン・オフセットねえ、知らなかった。でも、それが正解なのかどうかは、誰にもわからない。タイトルの意味が良くわからないなぁと思いながら読んでいたら、ひたすら消費するだけの人生を送ってきて赤字しかない人生だった。だから癌となって余命幾ばくかとなった今、それを相殺してゼロ以下にする。なんて話が出てきて、ああ、そういうことかと理解はするけど、あまりピンとこない。そういう信念を元に行動する人がいるってことに驚く。

 まあ、アメリカって広くていろんな人がいるから、そういうもんなのかとも思う。

 だから、本書のテーマの芯の部分はあまり共感しないんだけど、話はおもしろい。とにかく読ませる。すでにお馴染みの登場人物たちがそれぞれ成長して、歳をとって出てくるのがしっくり馴染んで落ち着く。それに今回は、ジョー一家の養女となって悲惨な事件の犠牲となり死んでいたはずのエイプリルからシェリダンの携帯にメールが届くのである。追うジョー側の視点と追われるエイプリル側の視点が交互に語られ、話を盛り上げる。今回は初めてジョーの捜査にシェリダンが加わる。妙な緊張感と親子の絆、そこにネイトの不遜な頼もしさが加わって、臨界点がピタッとラストに焦点を定め、またまた気をもたせたラストで、次につながってゆくのである。それにしても、最後の最後に待ち受けていた衝撃は、わからなかったなぁ。

 う~ん、うまいなあ。わかりきってる手法なんだけど、ついつい乗せられてしまうんだよね。分厚い本なのに、スイスイ読めちゃうから、どれだけおもしろいのかがわかろうってものだ。
さて、次巻はいよいよこのシリーズを読もうと思うきっかけになった第9作「狼の領域」だ。紹介されていた当時、新参者はこの巻から読んでもいいなんていわれてたけど、いやいや、そりゃあダメでしょ。甘言にのせられて大きな過ちを犯さなくてよかったと胸をなでおろしております。