読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

C・J・ボックス「発火点」

発火点 猟区管理官ジョー・ピケット・シリーズ (創元推理文庫)

 

  もう十三作?この根気のない、集中力ゼロの飽き性のぼくがこれだけ続けて読んでいるのだから、このシリーズがどれだけおもしろいのか、わかろうってもんだ。大人の事情かなんか知らないけど、本書から講談社文庫ではなくて創元推理文庫から刊行されることになったそうだけど、とりあえず継続されて良かった良かった。

 今回は、ジョーの娘の親友の父親が窮地に立たされる。ていうか、逃亡犯になっちゃうのである。本書の中盤以降の山での追跡行は臨場感たっぷりで、自然の脅威、厳しさをこれでもか!とわからせてくれる。しかも、それに追い討ちをかけるように、あんなことやこんなことが起こって、ああた、もう、そりゃエラいことになっちゃうんですよ。このシリーズのいいところは、ストーリーとしての面白さがしっかりしていることで、いってみればミステリとしての驚きもあり、入り組んだ相互関係がするするとほどける快感もあり、なんならどんでん返しまであったりするから侮れないのであります。

 先にも書いたように十三作にもなるこのシリーズ、もちろん登場人物たちも出たり入ったり歳とったり、大河的な面白さも相まってみんな帰って来たよ的な安定感と期待が入り混じって、それだけでエモくなったりするのであります。第一作から本作までの間に十年以上の時が流れて、あの七歳だった長女シェリダンが本作では大学生なんだもんねえ。そりゃあ、ジョーも馬から飛び降りて膝が痛くなったりしちゃうわけだ。

 ジョーの人生は、まさしくジェットコースター。今回また彼は愛すべき仕事を離れる決意をする(何度目だ?)。しかし、シリーズはまだまだ続いている。彼はどういう肩書きで次作以降登場するのだろうか?そして、頼れる蛮人ネイトは、どうなってゆくのか?今回、ジョーの家族が危険に晒されることはなかった。しかし、そういう危機はまた訪れるはず。ジョーの目の届かないところで、家族に危険が及ぶともうヤキモキがMAXになってしまう。いてもたってもいられなくなってしまうのだ。誰も傷つけたくない。そういう思いが強いからこその焦り。こんなこと思うのって、このシリーズくらいなのだ。

 というわけで、また次の巻を楽しみにしつつ、みなさんさようなら。