読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

C・J・ボックス「狼の領域」

狼の領域 (講談社文庫)

 続けて読みました。だっておもしろいんだもの。で、ぼくがこのシリーズを読みたいと決意したのが本書なのだ。本書が刊行された当時(2016年)、ところどころでこのシリーズのおもしろさとその中でも本書の素晴らしさを絶賛する声が聞こえたのだ。 
 今回は、ほんとにジョーが命からがらの体験をする。不審な事件が相次ぐシェラマドレ山脈で遭遇する双子の兄弟。あまりにも奇妙で不気味なその兄弟はジョーを心底震え上がらせるのである。その兄弟は、なぜ山の中で孤立した生活をおくっているのか?圧倒的なこの力の差は、なんなのか?そしてジョーの窮地を救ってくれた女性は誰なのか?水面下で蠢くジョーの知らない事実。政治と権力が絡んできて、いつものようにジョーの手足を動かなくする。

 いつものように、ジョーを陰で支えるネイトが今回も協力してくれるのだが、ここにきてはじめてジョーとネイトの間にはっきりとした確執がうまれてしまう。あくまでも正義を貫いて自分の立場に立脚した精神を曲げないジョーと、世の理不尽な道理に憤り、己れの利益第一で物事を処理する政治家の建前を決して認めないネイト。心では、ネイトの怒りを汲み取っているジョーだが、彼の立場がそれを良しとしないのだ。ここらへん、頑固なんだよねジョーは。今後、彼らの関係がどう展開してゆくのか、とても気になるところだ。  

 でも。最後まで読んで本書が当初期待してたほどのカタルシスを与えてくれなかったことに驚いた。これだったら第一作の「沈黙の森」の方が大いに溜飲が下がった作品だった。でも、それはストーリーの骨格の印象であって、相変わらずこのシリーズはページターナーなのである。まして先程も書いたとおりここへきて、全体の物語は大きく転機を迎える。うまいなー、ボックス。次が気になって仕方がないっての。でも、ひとまずここでまた休憩いれておこう。