以前「綺譚集」を読んだときは『インモラルで、スプラッターの凄惨を極め、時に変態的でもある究極のエロスに徹し、常に尋常でない雰囲気をまとっている』と書いた。そして残酷さと美のバランスがとれておらず、そういった意味では皆川博子の短編と比ぶべくもないと結んだ。
本書は津原泰水の最新短編集である。タイトルの「11」のとおり11の短編が収録されている。
本書は津原泰水の最新短編集である。タイトルの「11」のとおり11の短編が収録されている。
「五色の舟」
「延長コード」
「追ってくる少年」
「微笑面・改」
「琥珀みがき」
「キリノ」
「手」
「クラーケン」
「YYとその身幹」
「テルミン嬢」
「土の枕」
一読して驚嘆した。すべての短編においてその驚嘆は継続した。短編の質が前回の短編集とまったく異なっていたのである。硬質で、読む者に媚びない文体。物語の全容がわかるまでのスリリングでミステリアスな展開。幻想、ミステリ、SF、ジャンルを軽々と超越した物語群に心底震えた。巻頭の「五色の舟」は以前に「NOVA 2」で読んでいたが、あらためて読んでみてもやはり素晴らしかった。続く「延長コード」もまったく予想できない展開で印象深い。その他の短編においてもすべて満足のいくものばかりなのだが特に気に入ったのは「手」、「クラーケン」、「テルミン嬢」、「土の枕」などである。
どれも、その凄さをどう説明すればいいのかわからない。概要を説明するなんて凡庸な手段は用いたくない。それぞれ、よくこんな話思いついたなと舌を巻くばかりなのである。着眼点、手段、技術、言葉の選択、意外性、ラストの余韻。すべてがあるべき場所に配置されている快感とでもいおうか。
完結してないのに完璧に構築されている完成された工芸品のような作品群。ぼくはため息と共に読了した。
完結してないのに完璧に構築されている完成された工芸品のような作品群。ぼくはため息と共に読了した。