こんな夢をみた。
やたら首の長い男がいて、ぼくの隣りを歩いている。でも、ほんとうにその男の首は異常に長く、ぼくと並んで会話してる男の身体は二メートルほど後方にある。男の首は身体から前に突き出すような形で長く伸ばされているから、こんな変なことになっているのだ。しかし、夢の中ではそのことは変じゃない。
至極普通にぼくは男と会話している。ぼくが横を向くと、男の顔だけがふわふわ浮いた状態なのだが、これは夢の中では普通のことなのだ。
ぼくたちは二人で漫才のネタあわせをしている。
「・・・・・せやから、言うたやないか!あの店には絶対行ったらあかんて!」
「いや、でもなあ、なんか、そういう時ってあるやろ?」
「どういうとき?」
「ほら、カタツムリ見てたら、なんか惹きつけられて一時間くらい目離せへんような・・・・」
「なんやねんそれ!おまえ、それ、いまの話とまったく関係ないやんけ!」
「いや、だから、わからんかな?―――――あ、そうそう、たとえば道歩いててな」
「ふむふむ」
「前から、ええ女が歩いてきました」
「おう、それで?」
「すっごい美人で、胸なんかボーンてなってて、腰んとこなんかキュッてしまってて、そんでもってミニスカートからきれいな脚がすらっと出てて・・・・・・」
「そら、すっごいええ女やな、めったにおらんけど」
「せやねん、そのめったにおらんごっつうええ女が前から歩いてきました」
「おいおい、ほんまに歩いてきたぞ!」
「え!?」
前から来た女性は、ネタの中で強調した魅力的な女性そのままの姿だった。峰不二子が実在したらこんな感じだったのではないかというような完璧な女性。
「あれはアニマや」相棒が言う。
「誰の?」
「世の男ども全般のや」
「そうなん?」
「ほら、容姿は完璧やろ?たぶんイヴもああいう容姿やってんで」
「イヴって、あのアダムの嫁はんの?」
「せや、人類の祖やな」
「ええー!ほんまあ?お前、そんなに首赤うして、なんかすごい興奮してへん?」
「うん、なんかすごく感じるもんがあんねん。なんやろ、この気持ち」
女性はぼくたちとすれ違った。そしてすれ違いざまに相方の首をやさしくひとなでしていった。
「あああ」なさけない声を出して、相方はその場にくず折れた。
「大丈夫か、おい」助け起こそうと相方の頭を抱えると(お忘れかもしれないが、身体はずっと後方にあるのだ)悩ましく眉間に皺をよせた相方の口から白い煙がもわっと立ち上がった。
「うわ!なんか出た」
驚くぼくをよそに、相方は至極気持ちのよさそうな顔で気絶していた。