凄腕だった殺し屋が、いまは現役を引退してサンディエゴで堅気として暮らしている。釣りの餌屋と不動産屋とリネンサービスを掛け持ちし、朝のはやい『紳士の時間』に愛するサーフィンをすることを生甲斐にしている62歳。別れた妻とも良好な関係を結び、愛する一人娘とは週一でランチを共にする。魅力的でゴージャスなブティックを経営する恋人との付き合いもあるしいくら時間があっても足りない結構忙しい親父なのだ。
開巻早々、そんな彼の日常が描かれる。忙しいが張り合いのある日々。愛する者との時間を大切にし、自分流のこだわりの生き方を全うすることに常々『骨が折れる』と洩らすフランキー。だが、彼はその生き方に妥協はしない。それがフランキー流なのだ。
そんな彼の平穏な日常に不穏な空気が流れ込んでくる。最初はなんでもないありきたりな交渉だと思っていたのに、フランキーはいきなり命を狙われることになる。まだまだ衰えていない彼はなんとかその場を脱出するが、自分が命を狙われているという事実が信じられない。どうして、いまになって?
そこから彼の謎の究明と逃亡がはじまる。まだ、マフィアがファミリーとして機能していたあの時代。本物の男たちがいて、ゴーザ・ノストラの誓いがまだ生きていた時代。古き良き時代を回想するフランキー。そこに謎を解く鍵があるはずなのだ。交互に語られる現在と過去の時制。次第に明らかになるフランキーを取り巻く世界。かつてマフィア映画にゾッコンだった人はぜひ読んでほしい。ウィンズロウの描くマフィアの世界はあの古きよき時代のマフィアの匂いをプンプン放っている。短い章割りを多用し、軽くどんどん読み進めていけるのだが、安っぽい印象は受けない。むしろ小気味よくて心が浮き立つような素晴らしい映画を観た後のような満足感と高揚がある。ラストなどは情景のあまりのうまさにおもわず涙ぐんでしまった。
難がないわけではない。人物の出し入れで少し都合が良すぎる展開があったので、そこはいまでも納得できないのだが、それでもやはりこの本は読んで良かったといえる作品だった。ウィンズロウ、うまいねえ。