読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

2006-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ぼくの気持ち

ついさっき ぼくの心を蹴飛ばしたよね? バス停では、あんなこと言ったけど 本心じゃないんだよ 口をとがらせたキミは可愛かった 伏せた目のまつげの先に光が宿って、とってもキレイだった ため息ばかりついていたのは 退屈だったわけじゃない ぼくの気持ち…

柳田邦男「マッハの恐怖」

航空機の墜落事故ほど悲惨な現場はない。そこには、考えも及ばない未知の力によって破壊されつくした 残骸しか残っていない。航空機も人体も悲惨なまでに損壊してしまう。以前、御巣鷹山123便墜落事故 に関する本を読んだことがあるが、まさしく目を覆う…

スーザン・ヴリーランド「ヒヤシンスブルーの少女」

フェルメールという画家は、名のみ知るという存在だったが、本書を読んで興味を新たにした。ホント光と影が細やかに描かれていて、それによる色の変化が絶妙なのである。本書に触発されて一昨年、神戸にフェルメールの「絵画芸術」(またの名を「アトリエの…

はじまりの朝

静かな朝まだき 明るみはじめる窓の外 ぼくは、いつになくはっきり目が覚める そんなとき 大きな力がぼくを支配する なんでもできる そんな気がする これから始まる一日 動き出す外の気配に 心がさわぐ そんな素敵な時間のなかで 悲しいこと、つらいこと、腹…

黒田研二「ウェディング・ドレス」

トリックについて言及しています。本書を既読の方だけお読みください。 正直言って、少し期待ハズレだった。 おもしろくなかったワケではない。所々疑問を残して展開する視点交互のプロットは楽しめた。 話自体がタイトルから受ける印象とは正反対の結構エグ…

小笠原慧「DZ ディーズィー」

ミステリ作品を数多く読み込んで、魅力的な書評記事を書いてらっしゃるあまりす先生のオススメ作品で す。 あまりす先生の記事はこちら→「DZ(ディーズィー)」・小笠原 慧 医学ミステリーというジャンルは多分にサスペンスフルな話が多く、本書もその例に…

サムライ?

古瀬田街道を東に行くと、斜めに突き出た枝が見事な樹齢百年といわれる大木がある。 友人の山瀬と二人肩を並べて歩いていると、その木の前にうずくまる男がいるのに気がついた。 「もし、そこのお侍さん。いったいどうなされたんですか?」 そう声をかけて初…

C・G・フィニー「ラーオ博士のサーカス」

当初創樹社→サンリオSF文庫から出てたのだが、廃刊後ちくま文庫で復刊された。この頃は、ちくま文庫から長らく絶版だった翻訳本や初紹介の本が多く出版されおおいに喜んだものだが、本書もその中の一冊だったのである。 こういう本に目がないぼくは、ちく…

泡坂妻夫「しあわせの書―迷探偵ヨギガンジーの心霊術」

この本の仕掛けは素晴らしい^^。 読んでトリックがわかった人は、思わず誰かに試してみたくなるに違いない。ぼくもそうだった。 ヨギ・ガンジーのシリーズは本書がはじめてだったのだが、ミステリー的には普通の作品だった。 それほどのサプライズもなかっ…

挫折本について

今日まで車中本としてディックの「暗闇のスキャナー」を読んでいたのだが、この後期の傑作といわれ宮部みゆきも絶賛している本をこれ以上読み続けることができなくなってしまった。 まったくおもしろくないのである。この本、キアヌ・リーヴス主演で映画化も…

ピーター・ワトスン「まやかしの風景画」

宝探しというのは、いくつになってもワクワクしてしまう。ポーの「黄金虫」、乱歩の「二銭銅貨」、インディ・ジョーンズもそうだし、いま話題の「ダ・ヴィンチ・コード」もある意味宝探しの物語だ。 そんな連綿と続く『宝探し』小説の系譜に連なる傑作が本書…

進化系バトン!

いつもお世話になっている、お天気お姉さんのAnvilさんから進化系バトンを頂きました。 進化系バトンは初めてです。どんどん変えていっちゃうんですね^^。 『ルールは、終わった後に質問を3つ削除して、そこへ3つの質問を追加する。バトンを回す人数は変…

米澤穂信「氷菓」

この人の文章はあまり好きじゃない。高校生が主人公なのだが、妙に古臭い言い回しが鼻につく。 それがスタイルとして定着していれば文句もないが、中途半端な印象だ。主人公の奉太郎の造型にして も、省エネ推奨者のネガティブな性格があまり好きになれない…

デイヴィッド・ベニオフ「99999【ナインズ】」

数字の並んだタイトルと、メーター写真の表紙。あまりソソられる本ではない。 しかし、これが素晴らしい短編集だった。 本書に収録されている作品は8編。それぞれ新鮮で驚きにみちており、手をかえ品をかえ読者を飽きさせない。表題作は音楽業界を舞台に捨…

七北数人編『猟奇文学館』シリーズ

猟奇に題材をとったアンソロジーシリーズである。猟奇=エログロみたいなイメージがあるが、本アン ソロジーに収録されている作品からは不思議とそういう匂いはしない。確かに扱っているテーマは『監 禁』、『獣姦』、『カニバリズム』とエログロ満開っぽい…

切りとられた風景

切りとった風景に馴染んで君が笑ってる 細められた目と、白い歯 軽く腕を組んで、自然に笑う君は とても幸せそうだ 舞い落ちる桜の花びら 土塀に囲まれた狭い道 どうしてこんなところで写真を撮ったのだろう どうしても思い出せない やさしい笑顔をみせる君…

ディーノ ブッツァーティ 「待っていたのは」

ブッツァーティの作品は不安と不条理に満ちている。その世界は日常をはなれ、およそ現実味のないものなのだが読んでいるとどうも落ち着かなくなってくる。描かれている世界が極端にシュールで不条理なのに、妙にリアルに感じられるのだ。それは彼の描く世界…

田中哲弥「やみなべの陰謀」

ビミョーだ。すごくビミョーな感じだ。 千両箱と一人の男によって5つの話が結ばれる。タイムトラベル物なのだが、いかんせん収拾が甘い。それぞれの話は、そこそこおもしろい。 第一話は『ある日突然~』というSFには定番のサプライズで物語がはじまる。…

宮部みゆきMyベスト

今回は宮部作品について書きたいと思う。実はゆきあやさんの記事に触発されたといっても過言ではな い。久しぶりに懐かしい作品に出会ったので、ぼくも一言残しておきたくなったのである。 ゆきあやさんの記事は→火車 (ねこ4.5匹 でも、はっきりいって最…

チャールズ・バクスター「愛の饗宴」

いつものごとく、普通の人々の、普通の愛の営みを描いている。 だが、そこはバクスター、そのなんでもない普通の世界が小説として成り立っているのだからたいしたものだ。いくら普通だといっても、それは言葉の綾であって、そこにはサスペンスもあればミステ…

ユリサントの世界

雨あがりの道は、いつもより重たく感じられ 世界もみんなモノトーンに沈んでしまって 動きがない景色にとらわれたぼくは 咳を一つして 大きく伸びをした 湿っぽい空気は身体にまといつき まるで水中で動いてるみたいに気だるい フィッシュボーンにある大きな…

高橋克彦「刻謎宮」

これは、夢のある話だ。久しぶりにわくわくしながら読んだ。 あの「総門谷」のようなぺダントリックなおもしろさとはまた違ったおもしろさだった。ギリシャ神話は昔から大好きで、どうして好きになったのかといえそれはひとえにレイ・ハリーハウゼンのおかげ…

テリ-・ホワイト「真夜中の相棒」

やりきれない話ではないが、救いのない話である。正直いってとても辛い話なのだ。 本書の結末がけっしてハッピーエンドではないのは最初からわかっている。だが、どうしても見届けたい、この三人のアウトロー達の行く末を見ておきたいと思わせる何かがあるの…

またまたやってしまいます、山風表紙コレクション 今回は短編集。

またまた山風コレクションです^^。 今回は短編集いってみましょうか。この短編集もなかなか素敵な表紙が揃ってますよ。佐伯俊男先生いい仕事なさってます。 では、さっそくいってみましょうか。 まずは、「伊賀の聴恋器」。 この短編集には「剣鬼喇嘛仏」…

ノスタルジア

月が西の中空に浮かぶころ 懐かしい記憶がよみがえる 夜の運動場 青白い白熱灯 文化祭前夜のあわただしいひととき 自分が一番だと思ってたあの頃 負ける気なんてしなかった 自転車の後ろに乗った君は ぼくの背中に顔を押し付け いい匂いがするって言ってた …

ジャック・ケッチャム「隣の家の少女」

ジャック・ケッチャムの本は数冊読んだが、本書を越える話はなかった。ドメスティック・バイオレンスの話も、人を食う話も、妊婦を監禁する話も、なんとも思わなかった。しかし本書は違った。 これほど無残な話は読んだことがなかった。「ミザリー」なんか足…

宇月原晴明「黎明に叛くもの」

正月に読んだ「聚楽 太閤の錬金窟」がことの他よかったので、本書を読んでみた。で、「聚楽 太閤の錬金窟」が風太郎の「妖説太閤記」へのオマージュだったのにたいして、本作は司馬遼太郎の「国盗り物語」へのオマージュとなっている。 恥ずかしながら、「国…

ハワード・ブラウン「夜に消える」

本書は、1985年に刊行された。いまから二十年以上前である。 本書の謎は非常にシンプルだ。ちょっと目を離したすきに妻がいなくなるのである。 ホームズシリーズには『語られざる事件』というのがある。事件の名のみ出てきたり、さわりだけ紹介されたり…

夕暮れの情景

うつむく君の首筋に 流れる銀のくさり、さらさらと 夕暮れの歩道に並んで二人 細くふるえる指先が愛しい 悩んで、泣いて、けんかして ウソをついたこともあったね 犬を連れた老人 お母さんと手をつないでる子ども 普通の風景に溶け込んで 平凡な毎日が流れて…

福澤徹三「壊れるもの」

この人、最近本出てないですね。 新しい恐怖小説の書き手として注目していたのだがどうしたんだろう? 彼の書く体験をもとにした短編は、なかなか怖い。「再生ボタン」や「怪の標本」に出てくる数々のエピソードは、ゾワリと背筋が寒くなるものばかりだった…