古瀬田街道を東に行くと、斜めに突き出た枝が見事な樹齢百年といわれる大木がある。
友人の山瀬と二人肩を並べて歩いていると、その木の前にうずくまる男がいるのに気がついた。
「もし、そこのお侍さん。いったいどうなされたんですか?」
そう声をかけて初めて自分が着物を着て、帯刀しているのに気がついた。
おお、おれも侍ではないか!いったいこれはどういうことなんだ。
うずくまる男は、蒼白で苦しそうに息をしている。
「どうされました?かなりお困りのご様子ですが・・・」
友人の山瀬も心配そうに声をかける。
おお、だれだこの男は!さっきから友人の山瀬だと認識していたが、こんな男ぜんぜん知らないぞ。
うずくまる男は、ゆがめた顔を上げこう言った。
「辻斬りに遭いました。それがしも腕に覚えがありますので斬り合ったのですが、手傷を負ってしまいました」
男が胸に抱えているのは、斬りおとされた自身の右腕だった。
カラスがクワーと鳴いた。
肘から斬り落とされた腕を見て、気分が悪くなった。
今、気づいたが辺りは暗い。もう夜なのだ。
友人の山瀬は、斬りおとされた腕を見たとたん卒倒してしまった。
やがて街道の東の方向から、ほのかな灯りが近づいてくるのに気づいた。
提灯だ。
誰かがやってくる。
でも、近づく人の姿がおぼろげに浮かびあがってくるにつれて
得体のしれない恐怖がわき上がってきた。
なぜなら提灯の影の中で、その人物の目だけが爛々と光っていたのだ。