この人、最近本出てないですね。
新しい恐怖小説の書き手として注目していたのだがどうしたんだろう?
彼の書く体験をもとにした短編は、なかなか怖い。「再生ボタン」や「怪の標本」に出てくる数々のエピソードは、ゾワリと背筋が寒くなるものばかりだった。
その場でしか味わえない、言いかえれば当事者しか味わえない恐怖を的確に伝えていて秀逸だった。
そんな彼が書いた長編を読んでみたら、これが予想外におもしろかった。
丁度、奥田哲朗の「最悪」や「邪魔」に通じるテイストなのだ。
つまり、息苦しいほどの閉塞感がある。リアルな恐怖、身にせまる恐怖。
主人公のたどる転落の道は、他人事とは思えない真実味でぼくの心をしめつけてくる。このようなことがいつ我が身におこってもおかしくないと思って心底ビビッてしまった。
そして、それに輪をかけて迫ってくる不条理な恐怖。こっちの恐怖のほうは幻想的な味付けなので、それほどインパクトは強くないが、でも不気味な余韻を残す。
過去と現実がリンクするところや、詳しくは書けないが多少鼻白む部分はある。
でも、おもしろかった。なんともいえない後味が残るのである。
この人は、怪異にこだわらなくてもスゴイ作品が書ける人だと思う。
もっと読んでみたいと思った。