ミステリ作品を数多く読み込んで、魅力的な書評記事を書いてらっしゃるあまりす先生のオススメ作品で
す。
あまりす先生の記事はこちら→「DZ(ディーズィー)」・小笠原 慧
医学ミステリーというジャンルは多分にサスペンスフルな話が多く、本書もその例にもれない。
発端から中盤までの展開は同時進行で視点変化がおこなわれ、ページを繰るのももどかしいほどのおもし
キーワードからある程度の類推はできるのだが、何が起こっているのか全貌は見えない。またそれが全体
に不気味なトーンを落とす。
本書の最大のキーワードは『進化』である。何万年という歳月をかけて成立するこの壮大なプロジェクト
が、いったいどういう風に物語に絡んでくるのか?作者の大胆な試みに驚くばかりだ。
また、この作品には底流として疎外される者の哀しさが漂っている。多くの人が理不尽に死んでゆくが、
その事実を覆い隠すほどの哀しみがあるのである。終盤に近づくにつれて浮上してくるこの哀しみのトー
ンが陰惨な印象を和らげている。しかし、ラストに待っている小さなサプライズは、明るい話題であるに
も関わらず読み手に不安な気持ちを抱かせる。このへんは作者の確かな構成力に舌を巻くばかりだ。
著者が医学博士だという背景が、いい意味で物語にリアルな奥行きをあたえている。素人には、チンプン
カンプンな医学知識もとてもわかりやすく書かれているし、無理なく物語に浸透していて安心して読め
る。
難をいえば、後半の展開に少し性急さが認められたところだろうか。少し御都合主義的な部分も感じられ
るが、全体的には非常におもしろく読めた。次の作品も楽しみだ。