読書の愉楽

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スーザン・ヴリーランド「ヒヤシンスブルーの少女」

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 フェルメールという画家は、名のみ知るという存在だったが、本書を読んで興味を新たにした。ホント光と影が細やかに描かれていて、それによる色の変化が絶妙なのである。本書に触発されて一昨年、神戸にフェルメールの「絵画芸術」(またの名を「アトリエの画家」)がきたときは、家族をつれて見に行った。このフェルメールの最高傑作といわれる作品を目の前で見れたのは、何にもかえがたい喜びだった。

 フェルメールを知らない妻でさえ感動していたくらいだから、やはりこの絵は素晴らしいのだろう。

 で本書なのであるが、一枚の絵の遍歴を時代を遡って描いた本書は各パートの設定が秀逸で、あたかも実際そのような出来事があったかのような臨場感にあふれていた。絵の真贋についてのミステリもからめ、またその真相が心憎いばかりの見事な着地をきめていて、静かで疲れた本当の人生を思わせる本書にぴったりだった。中でもオランダが大洪水にみまわれた1717年を描いた「朝の輝き」と「アドリアーン・クイペルズの手記から」の二編は特に良かった。「朝の輝き」では、災害に遭って窮地にたたされながらも絵を愛し、手の届かぬ美しさにすがる農夫の妻サスキアが光り輝いてみえたし、「アドリアーン~」のほうは迷信がまだまだ幅を利かせていた時代に、その迷信にとりつかれている少女と科学の申し子のような青年の対照的な二人の悲劇的な行く末がゴシック仕立てで語られ強く印象に残った。

 薄い本だが、内容は濃い。「ヒヤシンス・ブルーの少女」が実在するんじゃないかって、ほんとに信じてしまうほどだった^^。