読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

チャールズ・バクスター「愛の饗宴」

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 いつものごとく、普通の人々の、普通の愛の営みを描いている。

 だが、そこはバクスター、そのなんでもない普通の世界が小説として成り立っているのだからたいしたものだ。いくら普通だといっても、それは言葉の綾であって、そこにはサスペンスもあればミステリもある。

 日常にはドラマがある。本書は不眠の作家バクスターが深夜に家を抜け出し散歩していて出会った友人のブラッドリーに勧められ、ブラッドリーと彼の周辺にいる人たちの愛の告白を描いていくという構成になっている。そこで描き出されるのは、大人の愛、ティ-ンエイジャーの愛、不倫の愛、父が子を思う愛と多種多様。愛について語る言葉には、当事者しか語ることができないリアルな重みがある。ときにはおかしく、ときには哀しく、ぎこちなくもあまりにも身近な真実の姿があるのだ。小説巧者バクスターの技量に奢らない、肩の力を抜いた自然な物語が楽しめる。

 限りなく普段通りの世界なのに、どうしてこんなに惹きつけられるんだろう?

 やっぱりバクスターはいい。もっともっと読みたい作家だ。