今回は宮部作品について書きたいと思う。実はゆきあやさんの記事に触発されたといっても過言ではな
い。久しぶりに懐かしい作品に出会ったので、ぼくも一言残しておきたくなったのである。
ゆきあやさんの記事は→火車 (ねこ4.5匹
でも、はっきりいって最近の彼女の作品はあまり読んでない^^。
直木賞を受賞した「理由」と「ドリーム・バスター」を読んでからパッタリと途絶えてしまった。
で、それまで読んだなかで印象に残っている作品を三作選んでみると「龍は眠る」、「火車」、「模倣
犯」となる。サスペンスフルな「レベル7」や、小品ながら小技のきいた「R.P.G」も好きだが、や
はりブロックバスター的な作品となると、上にあげた三作になるだろうか。
「龍は眠る」は宮部みゆきが大好きだというS・キングを意識して書いた初の超能力物だった。
小説の世界では目新しさのない題材だが、それを彼女はキングの手法にのっとって真正面から描いてみ
せた。ディティールを書き込むことによってリアルな世界を構築し、超能力という非現実的な要素を無
理なく展開した。読めばわかるが、本書が心に残るのはそこに苦悩があるからである。重く心にのしか
かってくる苦悩が我が身のことのように感じられるのである。発端となる嵐の夜の邂逅から、この物語
には特別な力を持った者の疎外される苦悩がつきまとっている。縦と横の軸が交差して、サスペンスに
とんだ展開をみせるプロットもさすがだが、本書の読み応えはやはり苦悩に集約されるのではないだろ
うか。忘れがたい作品である。
「火車」はいわずとしれた彼女の代表作だろう。
この本も一読忘れがたい印象を残す。失踪人捜しというハードボイルドの定番ともいえる展開と、少し
づつ浮き彫りにされる彼女の軌跡。徹底的に自分の足取りを消しながら行方をくらます彼女は何者なの
か?何が彼女をそこまで追いこんだのか?一人の女性の壮絶な日陰の人生が露見するとき、確かにぼく
は粟立つ思いを味わった。たった一人でしか生きられなかった彼女。家族と笑いながらテレビを見るこ
とや、恋人と無邪気にじゃれあうことのなかった彼女。普通に暮らすことのちょっとした幸せさえ得ら
れなかった彼女。映画の「砂の器」をみたときと同じ悲しみを感じた。悲惨で、やり場のない悲しみが
全身を覆いつくすような感じだ。宮部みゆきはやさしい。だから哀しい。
「模倣犯」は現時点での最大長編であり、問題作である。
この作品は雑誌掲載時から気になっていた。なんかすごそうだぞと思っていた。そういった意味では現
在雑誌連載中の「ソロモンの偽証」も大変気になっている^^。
で、本書なのだが傑作なのだ。あのキングの「スタンド」にも手が届きそうな3551枚という長さが
まったく気にならないページターナーだった。これにくらべると「理由」などは無駄な描写の横溢した
駄作に感じられる。ラストが少し物足りない気もするが、98%パーフェクトな作品といってもいいだ
ろう。本書は犯罪を描いているのではなく犯罪に翻弄され呑み込まれていく人間を描いた作品なのだ。
シリアルキラーを扱っているので、宮部作品にはめずらしく残虐な描写も出てくるが、底に流れている
のはやはり人間を大きく包みこむような温かいまなざしなのだ。
犯罪が巻きおこす波紋。それは運命の過酷な手のようなもので、ある日突然平凡な日常を握りつぶして
いくのである。しかし人間はそれに強く立ち向かってゆく。腕を折られても目をつぶされたとしても。
破滅と再生。でも、これが自身にふりかかれば、ぼくはどうしてゆくのだろう?そう思わずにはいられ
ない作品だった。
というわけで、宮部作品で特に印象深い三作を紹介した。といっても読んでない作品は多い。デビュー
作である「魔術はささやく」も未読だ^^。タイミングを逃したといえば、体よく聞こえるが怠慢だな
と自分でも思う。時代物もニ、三読んだだけだし短編集はもっと読んでない。これから追々読んでいこ
うと思う。そのうちね。