読書の愉楽

本の紹介を中心にいろいろ書いております。

七北数人編『猟奇文学館』シリーズ

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猟奇に題材をとったアンソロジーシリーズである。猟奇=エログロみたいなイメージがあるが、本アン

ソロジーに収録されている作品からは不思議とそういう匂いはしない。確かに扱っているテーマは『監

禁』、『獣姦』、『カニバリズム』とエログロ満開っぽいテーマなのだが、これが意外とそうでもなく

すんなり受け入れられるのである。私見でものを言うが、このアンソロジーは決して色モノの寄せ集め

ではない。なかにはズバリテーマそのものという作品もあるし、エロティックな作品も多いのだが、全

体的に見渡すとなかなか素晴らしいアンソロジーだと思うのである。

では、各巻について。

第1巻「監禁淫楽」

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この巻に収録されているのは

皆川博子 「朱の檻」
連城三紀彦「選ばれた女」
小池真理子「囚われて」
宇能鴻一郎「ズロース挽歌」
式貴士  「おれの人形」
篠田節子 「柔らかい手」
赤江瀑  「女形の橋」
谷崎潤一郎「天鵞絨の夢」

の8編である。サスペンスあり、幻想あり、中国物ありとなかなかバラエティに富んでいる。皆川「朱

の檻」は、檻に魅入られた者の心理を描いている。連城、小池作品は、サイコサスペンス。どちらも狂

気が描かれていて秀逸。宇能、式作品はテーマそのものズバリのストレートな作品。美しい女を『物』

として所有する淫らな喜びが描かれているが、やはりそれは破滅を予見しているのである。篠田「柔ら

かい手」は逆に男が監禁される話。身動きできない状況で、どんどん追いつめられる心理が息苦しい。

赤江「女形の橋」は異郷の閉鎖された村を描いている。幻想的な悪夢のイメージとでもいおうか、うな

されそうな作品だ。谷崎「天鵞絨の夢」は中国が舞台の異世界ファンタジー風物語。美しい話である。


第2巻「人獣怪婚」

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収録作は

阿刀田高 「透明魚」
赤江瀑  「幻鯨」
眉村卓  「わがパキーネ」
岩川隆  「鱗の休暇」
村田基  「白い少女」
香山滋  「美女と赤蟻」
宇能鴻一郎「心中狸」
澁澤龍彦 「獏園」
中勘助  「ゆめ」
椿實   「鶴」
勝目梓  「青い鳥のエレジー
皆川博子 「獣舎のスキャット

の12編。ファンタジーや童話の世界ではあたり前に描かれる異類婚。これが現実世界では獣姦という

禁忌の意味合いをおびてくる。テーマがテーマだけに、本巻には官能的な雰囲気がつきまとう。タブー

であるがゆえに、そこには犯してはならない罪への後ろめたさがあり、それゆえに不気味にエロティッ

クなのである。各編の感想は控えよう。人ならざるものとの交わりを描いて動物はいうにおよばず、魚

やクジラ、はては異星人まで出てくるとは、作家の想像力に脱帽である。


第3巻「人肉嗜食」

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収録作は

村山槐多 「悪魔の舌」
中島敦  「狐憑
生島治郎 「香肉(シャンロウ)」
小松左京 「秘密(タプ)」
杉本苑子 「夜叉神堂の男」
高橋克彦 「子をとろ子とろ」
夢枕獏  「ことろの首」
牧逸馬  「肉屋に化けた人鬼」
筒井康隆 「血と肉の愛情」
山田正紀 「燻煙肉のなかの鉄」
宇能鴻一郎「姫君を喰う話」

以上11編。このテーマは作家を刺激するらしく、古今東西多くの作品が書かれている。人が人を食う

話となると究極の状況であり、それを描くとなるとどうしてもパターンが決まってくるように思うのだ

が本巻のバリエーションの豊富さはどうだろう。どれもその作家の持ち味がよく出ていて秀逸である。

鬼気迫る話、胸つまる話、異世界の話、時代物、不条理ファンタジーと手を変え品を変え楽しませても

らった。気づかれた方もいると思うが、この三巻通して収録されている作家がいる。そう、宇能鴻一郎

である。この作家、以前から探しているのだが芥川賞受賞作を含む「鯨神」がなかなか手に入らない。

昨年、出版芸術社のふしぎ文学館から「べろべろの、母ちゃんは・・・・・」というのが出たが、これ

はモロ官能小説っぽい。もっと初期の頃の作品を網羅した短編集、どこか出してくれないものだろうか


というわけで、長々と書いてきたが、本アンソロジーは買いである。こんな作家がこんな作品を書いて

いたのかという驚きもあれば、やはりこの作家はこういう作品書いてなくちゃねと納得もある、とても

バラエティーに富んだアンソロジーなのだ。ミステリ、幻想小説好きにはオススメです。