読書の愉楽

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宇月原晴明「黎明に叛くもの」

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 正月に読んだ「聚楽 太閤の錬金窟」がことの他よかったので、本書を読んでみた。
で、「聚楽 太閤の錬金窟」が風太郎の「妖説太閤記」へのオマージュだったのにたいして、本作は司馬遼太郎の「国盗り物語」へのオマージュとなっている。

 恥ずかしながら、「国盗り物語」は未読である。斎藤道三といえば蝮の道三として有名であり、織田信長の義父だというくらいしか認識がなかった。

 だが、本書でスポットを当てられるのは、松永久秀であった。懐かしい名だ。風太郎「伊賀忍法帖」に登場したこの悪名高い梟雄には特別の思い入れがある。

『此老翁は世人のなしがたき事三ツなしたる者なり。将軍を弑し奉り、又己が主君の三好を殺し、南都の大仏殿を焚たる松永と申す者なり』

 と湯浅常山の「常山紀談」にも紹介されるこの破天荒な男は、信長の世にあって特異な地位をほしいままにした妖人であった。

 本書は、そんな彼の生涯を綺羅星のごとき錚々たるメンバーとともに描きだした一大絵巻なのである。

 前回と同様本書にも伝奇的趣向は満載なのだが、なんといっても特筆すべきは久秀のあやつる傀儡である果心だろう。この自動人形と久秀のやりとりは、なかなか楽しませてくれる。イスラムから伝わった波山の法を会得している久秀にとって幻術はお手のものであるらしく、彼は様々な幻妖の術を見せてくれる。まさしく魔人松永弾正ここに在りなのだ。

 歴史的事実は公然のことだから結果は見えているはずなのに、それでも先が知りたくて読んでしまう不思議よ。

 しかし、本作は「聚楽~」とくらべると、いささか助長なきらいはある。いまでは、中公のC・NOVELSから4分冊で出てるみたいだが、ぼくが読んだのは単行本だった。588ページもあった。かなり分厚い^^。もうひとつ付け加えるならば、久秀のいやらしさがもっと強調されてても良かったような気もする。そういう不満があるにしても、これだけ長いと読んでいるだけでなんとなく愛着がわいてくるから不思議だ。ページを開くのが楽しみになってくるのだ。

 というわけで二冊目の宇月原本だったが、まずまずの感触である。この人は続けて追っていきたいと思う。