読書の愉楽

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平山夢明「恐怖の構造」

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 平山氏の小説は大好物で、その低俗でスタイリッシュな独特の世界観にいつも驚かされているのだが、そんな彼が真面目に恐怖の仕組みについて論じているのが本書なのである。といっても、決して小難しい考察などではなく、いってみれば近所のちょっと物知りなおっちゃんと楽しくおしゃべりしているようないたってフランクな調子で書かれているので、スイスイ読めちゃいます。

 実話怪談なんか書いている人だけあって、恐怖という感情に対して、どうして怖いのか?どうしてそういう心の動きになるのか?というわれわれがあまり真剣に考えない部分を掘り下げている。

 ぼくなどは単純に『高所恐怖症』なだけであって、あまり特異なフォビアは持ち合わせていないのだが、世の中には様々なフォビアがあって、その多様性には驚くばかりである。ぼくのまわりでいえば、蜘蛛、集合体、いもむし、蜂、先端という具合。また、そういった恐怖症とは別に恐怖を扱ったメディア作品がどうして広く支持されるのか?そういった『恐怖』に関することどもをいろんな例をだして解説してくれている。しかし、いかんせんそこに新しい発見はなかった。ぼく的に恐怖を真剣に考察したことはないのだが、ここで語られるすべてにおいてすでに身体のどこかで馴染んでいた気がするのである。まあ、それをこうして言葉にしてもらっただけでもありがたい事なのだが。

 怖いという感情は、自己防衛本能と密接につながっている。その対象が我が身に及ぼす影響について想像できるものもあれば想像できないものもあるが、身の危険を想定する上でそこに立ちはだかるのが恐怖なのである。だから本質的には、その対象が未知であればあるほど恐怖の度合いは高くなる。そのもっともたるものが『心霊現象』なのだろうね。

 平山氏には、もっと小説を書いて欲しいと思う。そうして、新しい世界をもっともっと見せて欲しい。彼の手になる実話怪談系の本は読んだことがない。読まず嫌いなのだろうが、身体の奥のほうでそれは読まなくてもいいという声が聞こえるのである。ぼくは、人を見る目がある。だから、書き物に関しても本能の目で見分ける術を備えているのだと自分で確信している。

 さて、これって他人からみれば恐怖の対象になるのかな?あの人、おかしいわって。