読書の愉楽

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福澤徹三「怖い話」

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 豊かな人生経験をもっている福澤氏が、さまざまな事柄に関して自身が怖いと感じる話をそれぞれの項目ごとに書いているエッセイである。たとえばそれは、食べものであり、虫であり、都市伝説であり、映画であったりバイトであったり病院であったりするのだが、どうも育った年代が近いせいか、ぼくもよく知っている話がちらほらと散見された。

 

 食べ物で強烈だと思うのは、やはりキビヤックだ。これって漫画「もやしもん」の第一話で登場したのでご存じの方も多いだろう。エスキモーやイヌイットが食べる究極の発酵食品だが、これが想像の範囲を超えた調理法で、まずアパリアスという海鳥を大量に捕まえ、それを瞬時に絞めて肉と内臓を取り出したアザラシの中に羽がついたまま詰め込み、二ヶ月から数年放置して発酵させるのだ。で、これをどうやって食べるのかというと、アザラシの腹から取り出したアパリアスの肛門に口をつけて、発酵してドロドロになった赤黒い内臓をちゅうちゅう吸うのである。そうした後、羽をむしって生のままの肉を食べ、最後に頭を砕いて脳みそを吸うのだそうだ。なんか想像しただけで、こみあげてくるものがあるが、子どものころからこれを食べていたとしたら、ぼくも自然に食べられるようになっていたんだろうね。そういった意味ではフィリピンで食べられているバロットも子どものころから食べていれば、普通に口にしていたんだろうね。これは孵化しかけのアヒルの卵をゆでたもので、まず殻に穴を開け、そこから塩やライムを絞り入れ、汁をストローで吸ったあと殻をむいて中身を食べる。もちろん孵化しかけだから中身はただのゆで卵ではなく雛の形になりかけている。これも勇気いるよね。でも向こうじゃ、きれいなおねえさんもおいしく食べてるんだから、育つ環境ってすごいなと思うのである。

 

 あと、怖い映画もいろいろ被るところがあっておもしろかった。ぼくもはじめて観たホラー映画はクリストファー・リー主演の「ドラキュラ」だった。たしか小学校にはいる前だったと思う。異常に怖かったという記憶が残っている。血を吸ったときの血走った眼と口から垂れる赤い血に心底おびえた。ラスト近くヘルシング教授が眠るドラキュラの胸に杭を打ち込む場面も、ノドから心臓が飛びでるんじゃないかと思うくらいドキドキした。

 

 あとショッキングだったのは「怖い料理店」で紹介されていた人気のラーメン屋の秘密。これが本当なら(いや、本当なんでしょう)怖くてラーメン屋に行けないっての。だって、ああた、スープの中にあんなものが入っているなんて、これも想像の範疇を超えてるっての。
 
 「怖い刑罰」で紹介されている身の毛もよだつ数々の刑罰は、想像で感じる身体の痛みに悶絶しそうになった。日本の磔ひとつとっても、そんなに残酷だったのかと驚いた。また極刑で有名な中国のかつての刑罰にも戦慄した。全身の皮膚を剥いでしまうって、それでも死ぬまで一日かかってしまうって、いったいどれだけの苦痛なのか。ほんと恐ろしい。

 

 というわけで、本書で扱われている怖い項目は18。どれもとても興味深い。気軽に読めて、しかし内容もしっかりしていていろいろ知識も増えるというお得本だ。どうか興味をもたれた方は手にとっていただきたい。